15『断罪』
ジェラルディンが盗賊団と対峙していた頃、王宮の大広間では国王の命令の元、政務の中心を占める重鎮たちを始め主だった貴族たちが集められていた。
もちろんそこには、先日の舞踏会の主催者である大公や、ある意味 “ 主役 ”と言える第一王子アルバート、バラデュール侯爵、その夫人、アデレイドが含まれている。
そして彼らは今、その上座の王座に国王が現れるのを待っていた。
「国王陛下、第二王子クリスティアン殿下、御成りでございます」
儀礼官が厳かに伝え、護衛官を引き連れた2人が入室してきて、広間に集まったすべてのものたちは最上礼と共に頭を下げた。
「皆のもの、ご苦労。楽にしてよい」
幾人かの上位貴族は椅子に座り、あとは皆立ったまま、王の次の言葉を待っている。
「嘘っ!黒髪?!」
小さいが驚きに満ちたアデレイドの声を、この場にいるすべてのものが聞いていた。当然王の耳にも入っているが、無視をして話し始めた。
「今日、集まってもらったのは他でもない。実はな……」
「父上! なぜ私が」
アルバートが必死に声を上げたが、国王はそれも無視して言葉を続けた。
「この度、看過出来ぬ失態があり、第一王子アルバートを王太子から外し、王位継承権を剥奪、さらに王族から外す事になった。
代わりに第二王子クリスティアンが王太子となる」
王座に座する国王、そして新たに王太子となったクリスティアンの2人は共に、この国の建国以来受け継がれた漆黒の髪と瞳を持つ正当な継承者だ。
「父上っ! どうしてそんな事になるのですか?!
私が一体何をしたと?」
「ジェラルディン嬢との婚約を破棄したであろう?
その瞬間、おまえは王太子の地位も、王位継承権も失ったのだ」
「なぜですか?
バラデュール侯爵家の長女から次女に変わっただけではないですか!」
「そうです!
王様と言っても横暴過ぎます!」
父侯爵が止める間もなく、口を開いたアデレイドに一瞬、信じられないものを見るようなアルバートの視線が突き刺さる。
「それが問題なのだがな」
そう言いながら、侮蔑を含んだ眼差しをアルバートとその隣のアデレイドに向けた。
「あの!
私がジェラルディンに何が劣ると言うのですか?!」
「黙れ、下郎!!
下劣な下等種がなぜ王宮にいる!!
ここは下民の来れるところではない」
「父上、それはあまりと言うものです。
アデレイドは私の妻となる娘」
「ほう、おまえは猿と交雑するのか?」
「なっ! いくら父上とはいえ、それ以上の侮辱は」
「どうすると言うのだ?
下民にたぶらかされて本質を見失ったおまえには、もう用はない。
どこにでも行けば良い。
そこの、バラデュール侯爵を名乗る男もな!」
「なんて横暴な人なの!
そんな人が上に立っているなんて間違ってる!」
心底嫌そうに、冷酷な目がアデレイドを見た。
その瞬間、国王の影から一本の棘が飛び出してアデレイドの肩を刺し貫いたのだ。
「ぎゃー!」
瞬く間に真っ赤に染まったアデレイドを見て、アルバートは顔を強張らせた。
「どうして?なぜこんな事が?」
「見たか、アルバート。これが真実だ」
王族を含む “ 御使い ”の子孫と言われる貴族たちの血は青。
平民と言われる、御使いが作り直したと言われる生き物の血は赤。
この2つはまったく別の生物なのだ。
「おまえが猿と交雑するのなら、それは自由だが、もう貴族でなくなる事は覚えておけ。
それとバラデュール侯爵、と名乗っている男。
おまえは3年前にその家督をアルテミシアに譲っている。
そして今の正当な侯爵はジェラルディンである。
ジェラルディンの情けであの家に住むことを許されていたが、私が侯爵位と領地の管理を託された今、さっさと出て行って貰おう」
「平民……下民?
血の色の違う、異なった生き物?」
「アルバート、私が説明してやろう」
国王の王座の近くにその座所を許された大公が立ち上がり、アルバートに向き直った。
ぎゃーぎゃーと煩いアデレイドは、近衛兵によって猿轡を噛まされ転がされている。
「おまえは小さな時から都合の良いことしか聞かない子供だった。
だから教育されていたはずの事も頭に残っていなかったのだろう。
結論から言うと、貴族が平民との間に子をもうけても、その子は魔力をもたない、一滴でも平民の血が混じった貴族家は魔力を失うのだ。
だから貴族は平民と婚姻しない。
もし平民と交雑して子が出来ても、庶子とし、相続権は発生しないのだ。
そこのバラデュールもおまえと同じ、おめでたい頭をしているようで、知らなかったようだがな」
「では、アデレイドは……」
「貴族と平民は婚姻出来ない。
そもそも平民との交雑種に相続権などない」
アルバートはあまりの衝撃に座り込んだ。
「そんな……では、私は」
「最初からおまえは、ジェラルディン嬢との婚姻を条件として王太子と認められていたのだ。
黒を持たぬ者が王位につけるはずがないだろう」
アルバートが今まで耳を塞いで聞いてこなかった真実が、次々と語られていた。