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149『暖かな侯爵邸』

「なるほど……

 そのような事があったのですか。

 けしからんですね。万死に値します」


 それなりの時間をかけて屋敷であった事をすべて話すと、思った通りバートリは憤慨し怒っていた。


「まあ、メイドについては早晩処刑が行われると思うけど、問題は丸投げしてきた不動産屋の事なのよね」


「私もお嬢様のお考えで問題ないと思います。

 強いて言えば、当家からの苦情を申し立てるくらいでしょうが、お嬢様はそれを良しとなさらないでしょう?」


「ええ。

 私は身元を明かしていないし、明かすつもりもないもの」


「では、それでよろしいのでは?

 最終的には金銭での賠償となるでしょう」


「金銭は欲しいと思わないのだけどね」


「とは言ってもけじめは必要でしょう?」


 タリアが紅茶のお代わりを注いで、ミルクをたっぷりと入れる。

 そしてサクサクのクッキーを添えて、ジェラルディンの前に置いた。


「大変でしたね、お嬢様。

 こんな事なら無理をしてでも同行するべきでした」


 タリアが眉尻を下げて項垂れている。


「それは無理よ。

 今いる町はここからかなり離れているのよ」


 下手に町の名を言えば追いかけてきそうで不安になる。


「どこかで長く落ち着く時には絶対にタリアを呼ぶから。

 なので今はこの邸で私の癒しになって欲しいわ」


「お嬢様!」


 歓喜のあまり、落涙せんばかりのタリアを宥めながら、ジェラルディンはもうあの一件は終わりにしようと決心した。




 夕食前に戻ってきたジェラルディンは、ラドヤードの目には普段と変わらないように見えた。

 ダンジョンから帰ってくれば矢継ぎ早に起きるトラブルに、すっかり参っているように見えていたが、実家に戻って気持ちの切り替えが出来たようだ。


「主人様、明日からの予定はどうしますか?」


「そうね……」


 ジェラルディンは少しの間考えをまとめて、それを口にした。


「あの屋敷からすべての荷物を引き上げてきて、次のダンジョンに潜る準備をして……そのくらいかしら?」


 今度はもういっそ春になるまで潜っていようかとも思うジェラルディンだ。

 そしてそれを口に出してみた。


「ねえ、ラドはどのくらいならダンジョンに潜っていられそう?」


「それは冬の間ずっとダンジョンに居るということですか?

 俺は男ですから大抵のことは平気ですが。

 あ、でも武器屋で砥石などの予備を買っておきたいです」


 もう彼の頭の中では消耗品の補給分をはじき出しているようだ。

 ジェラルディンは侯爵邸経由という裏技があるので不安はない。


「ではそうしましょうか」



 降り続く雪でクメルカナイの街中はすっかり静かになってしまった。

 雪が積もる前は出ていた屋台もその姿を消し、ジェラルディンお気に入りの串焼きも買うことが出来なくなっていた。


「食糧はうちの料理長に頼んであるの。

 私の収納にも食材が入っているし、当分は大丈夫よ。

 ラドの方はどう?」


「買い忘れが無いように書き出しました。今日はこれから買いに行くつもりです」


「では私はラドが帰って来るまで部屋にいるわね」


 この後ジェラルディンはアイテムバッグの中のものを整理し始めた。


「ずいぶんと脈略なく収納しているわね」


 まずはここの食料から消費していかなければならないと溜息していると、扉がノックされた。


「どちら?」


「メイドのアンです」


 扉越しの遣り取りで、ジェラルディンは彼女が入ってこない事に違和感を感じる。

 そっと指を伸ばして鍵をかけた。


「お嬢様、下にお客様が見えています。

【死の舞踏】とおっしゃる方なのですが、いかがいたしましょう?」


 ラドヤードがいない今、嫌な予感しかしない。


「臥せっていると伝えて下さい。

 それと誰か人をやって、ラドヤードを連れてきて下さいな」


【死の舞踏】が何の用なのだろうか。


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