148『迷い』
すでにジェラルディンの関心はポリーナにはない。
チラリと目配せすると、2人の憲兵が暴れるポリーナを連行していった。
代わりに連れてこられたのはラナバルだ。そしてバルタンが同行している。
「どうぞ、おふたりともそこに掛けて下さい」
先ほどのポリーナは立たされたままだった。この点から言ってもラナバルの扱いは犯罪者であるポリーナとは違う。
「その前に謝罪を。
ルディン様、この度の不首尾は私の不徳の致すところです。
どのような事を言っても謝罪にならないと思いますが、どうかお許し下さい。
そして私の誠意の証として、あの物件の賃料の返却と譲渡をさせていただきます」
ラナバルは跪き、額を床につけた。
バルタンも共に跪いている。
そして憲兵隊隊長は口を挟もうとしない。
……ラナバル絡みのこの件に関しては、非常に高度な政治的な案件となっていた。
最初にジェラルディンが個人的にナナヤタ不動産で賃貸契約を結んでいたなら、あっさりと断罪されていただろう。
だがバルタン=冒険者ギルドが仲介し、ポリーナを周旋したのは商業ギルドである。
この時点でラナバルに重罪を課す事が出来なくなっていて、そんな大人の事情をジェラルディンも把握していた。
何よりもジェラルディンにはラナバルに対しての怒りはさほどない。
強いて言えば、最初にメイドとして押し付けられた事だが、そこまでいってしまうと話が余計にややこしくなる。
それと合鍵を渡してしまった事だが、これも断罪し難い。
かと言ってまったくの無罪には出来ないという、誠に困った状況になっているのだ。
「落とし所ですわね。
その前にラナバル、あなたの謝罪を受け入れます。
その証と言うものも、はっきり言って私は要らないのだけど、そういうわけにはいかないでしょうね。
賃料はともかく、あの屋敷の譲渡は無いと思うのだけど」
ラナバルは額ずいたまま微動だにしない。
困惑したジェラルディンはバルタンに視線を移すが、彼も俯いていた。
「先ほどの理屈で言うと、商業ギルドと合鍵を渡した職員に罪が発生してしまうのよね。
職員はともかく商業ギルドは拙いと。
そう言う事なのね?バルタンさん」
もう邪魔くさくなったジェラルディンは、すべてを丸投げする事にした。
「とりあえず犯人の処遇は決まったので、私は帰らせてもらいますわ。
あとのことはそちらで “ それなりに ”決めて下さいな」
まったくの無罪はない。
なので最終的には金銭での賠償と言うことに落ち着くのだろう。
精神的に疲れたジェラルディンはバルタンに労わりの言葉をかけて、ラドヤードを伴って憲兵隊本部を後にした。
「ラドは甘かったと思うかしら?」
「そうですね……
あれが無難だったと思いますよ」
「私にはこの町での冒険者ギルドや商業ギルドの力関係がわからないから、この先は堪忍して欲しいわね」
この後2人は宿に戻り、ジェラルディンは癒しを求めて侯爵邸に転移していった。
雪の降り続く王都は深々と冷え込んでいた。
そんな中、侯爵邸では主人であるジェラルディンがいなくても日々粛々と時間が過ぎていく。
タリアはいつものようにジェラルディンの部屋を調えていた。
「タリア」
「お嬢さま?」
いつものように突然現れたジェラルディンは、顔色が悪く元気がなかった。
すぐにソファーに座り込むと珍しく身体を丸める。
そして溜息した。
「バートリを呼んでちょうだい」




