147『断罪』
「ひいぃぃ
聞いてないそんなこと、お貴族様なんて聞いてない……」
「そりゃあ、
おまえの雇い主のラナバルが先様に気を遣って伝えなかっただけだろう。
どうやらあの令嬢は自分が貴族だとおおっぴらにしたくなさそうだからな」
ジェラルディンがその気でも、まったく秘密になっていない。
その気品ある物腰も話し方もすべてが貴族のものだし、最近は異空間収納を隠す気もなさそうだ。
ポリーナに対しても、使用人を使い慣れた様子で対していた。
「貴族様、貴族様……
ねえ、助けて下さい!」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で縋ってくるポリーナを憲兵隊隊長は邪険に突き飛ばした。
「貴族家での窃盗は小さい罪ではないぞ?おまえはメイドとして何軒もの裕福な家を渡り歩いていたようだが、今までもこんな事をしていたのか?」
「まさか! 初めてだよ、こんなこと!」
ふうん、と憲兵隊隊長は興味無さそうに呟いた。
あの令嬢、ルディン嬢は見かけによらず苛烈な性格をしていそうだが。
「こ、子供たちに、もう少しでも良い暮らしをさせてやりたかったんだ。
だから出来心で!
私はあの子たちの為に!!」
ポリーナは跪いたまま憲兵隊隊長にすがりついている。
そして子供の為を強調して、同情を買おうとしたのだろう。
「そう、子供の “ せい ”だったのね」
隣室と繋ぐ扉が開いて、今の遣り取りをすべて聞いていたジェラルディンが姿を現した。
「お嬢様!!
申し訳ございません。出来心だったんです。
私は子供たちの為に……」
ポリーナは目の前の少女を泣き落とそうと言葉を重ねていた。
だがその最中にも、先ほどのジェラルディンの言葉になんとも言えない違和感を感じていた。
そこそこ口の回るポリーナはそれなりの演技もこなすことができる。
「……私は、何もかも誰も彼もを断罪して処分するつもりはないの」
ラドヤードが引いた椅子に座るジェラルディンを見て、ポリーナは希望を持ったのだろう。
縋るようにジェラルディンを見つめている。
「私は司法関係者ではないので難しい裁きは無用なの。
考え方は簡単よ。
その事象に対しての原因ね。
……あなたの場合、今の話では子供たちの暮らしの為に私の持ち物を盗んだ、と言ったわね。
隣の部屋にいた雑貨屋があなたから買ったと言う小瓶を見せてくれたわ。
私のものに間違いなかった」
「そ、そんなもの、どこにでもあるものじゃないですか」
「私が実家から持ち出したものには当家の紋章と私の印章が刻まれているのよ。見せてあげましょうか?」
ポリーナは唇を噛み締め、横を向いた。
「話を戻すとね、こうよ。
あなたが言うには “ 子供たち ”の為に、私の家にあった小物を持って帰って雑貨屋に売った。
この場合の当事者はあなたと子供たちと雑貨屋の主人。
本来の貴族ならきっと全員処分だろうけど私は優しいからそんなことはしないわ。
ちゃんと精査するとね、犯人のあなたはもちろんアウト。
それから原因となった子供たちもアウトね。
雑貨屋は巻き込まれただけだから無罪よ。ただ、あの小瓶は返してもらうわ」
目を血走らせたポリーナがジェラルディンに摑みかかろうとしたが当然のことながらベルクラムに阻止されてしまう。
暴れまわるポリーナが蹴った椅子がジェラルディンに向かって飛んできたが、今度はラドヤードが事もなしに掴んでいる。
「おそらく情に訴えようと子供たちを使ったのでしょうけど、逆に作用したわね。
ちゃんとあなたの目の前で処分するように指示しておくわ」
「どうして、どうしてそんな酷いことが出来るの?!」
後ろ手に縛られたポリーナが必死の形相で食ってかかるが、ジェラルディンは素知らぬ顔だ。
「だってしょうがないじゃない。
あなたが悪いのでしょう?」




