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144『捜査開始』

 ジェラルディンが部屋に到着するのとタイミングを合わせるように、顔見知りのメイドがお茶を用意したワゴンを押して現れた。


「ルディン様、ようこそおいで下さいました。

 ただ今お茶をお淹れしますので、お掛けになってお待ち下さい」


 彼女は身分の高い宿泊客に慣れた、貴賓室付きのメイドである。


「では、私は失礼します。

 ……当方でも入手出来そうな情報を集めてみます。

 では、おやすみなさいませ」


 これぞ、お手本!と言うべき礼をして、支配人は下がっていく。

 ジェラルディンはメイドからお茶を受け取った。


「あなたも夜遅くに悪かったわね」


「いえ、またお嬢様が来てくださって嬉しいです」


 彼女は細やかな気遣いに満ちていて、それでいて出しゃばらない、とても有能なメイドだ。


「今、入浴の支度をしております。

 あの、お疲れなら僭越ながらお手伝いさせて頂きますが、どうなさいますか?」


 はっきり言って今夜のジェラルディンは、これ以上何もしたくなかった。

 侯爵邸に転移することも考えたのだが、風呂の支度が勧められているのならこちらでもよい。


「そうね。ではお願いできるかしら」


 部屋の隅に立っていたラドヤードとアイコンタクトを交わして、ジェラルディンは奥の部屋へと向かう。

 もうその頃にはふかふかのタオル類が用意されていて、ジェラルディンも寝巻きやガウン、上履きなどを取り出した。

 そしてそのあと、うつらうつらしていたジェラルディンは、メイドの手によってピカピカに磨き上げられ、ベッドに誘われたのだった。



 ジェラルディンがベッドに横たわり、メイドが退室してラドヤードがドアに鍵をかけていた頃、憲兵隊は忙しなく活動し続けていた。

 夜明けまではまだまだ時間はあるが、商家や客商売の使用人たちはそろそろ起き出してくる頃だった。

 そして、ある家の玄関に憲兵隊の数人が訪れ、強く扉を叩いていた。


「我々は憲兵隊のものだ。

 先日起きたある事件について、こちらの主人に話が聞きたい」


 ドンドンドンと扉を叩く音は途切れる様子もない。

 起き出してきた使用人が扉を開けると雪崩れ込むように憲兵たちが入ってきた。


「ナナヤタ不動産、ラナバル。

 話を聞きたいので憲兵隊本部までご足労願いたい」


 それを聞けば誰も眠っていられないような大声で名を呼ばれて、転がるようにしてラナバルが飛び出してきた。

 その寝巻きの上にガウンを羽織った姿を見て憲兵は言う。


「あなたを捕縛しにきたわけではない。外は冷え込んでいるのでそれなりの着替えをしてきて欲しい」


 ラナバルはカクカクと頷くと、一目散に駆け出した。




「さて、今回ご足労願った理由は……」


 クメルカナイ領主館の近く、貴族たちが住む区画の端に憲兵隊本部はある。

 そこでは今、連れてこられたばかりのラナバルが憲兵隊隊長からの説明を受け始めたところだった。


「あなたが最近賃貸契約を結んだ、ある物件に関してのことだ」


「賃貸契約ですか?

 それは……何軒かございますが」


 憲兵隊隊長がある住所を言うと、ラナバルの顔色が変わった。


「年若いお嬢様にお貸しした物件です!あそこで何かが?」


「あのお嬢様の素性はご存知ですか?」


「いえ、仲介してくれた冒険者ギルドの職員に、無駄に詮索するなと言われたので……お貴族様であると言うことは存じ上げておりますが、このことは商会のものには知らせておりません」


「ふむ、そうか。

 実はルディン嬢の留守中に、あの屋敷に侵入者があったのだ」


「何と!?

 それでルディン様方は?

 まさか賊と鉢合わせしたのではありますまいな?」


「ラナバル、賊は玄関の鍵を使って侵入している。

 心当たりはないか?」


「そんな、まさか……」


 ラナバルの、今までも悪かった顔色が、まるで死人のそれのようになっていった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 貴賓室付きのメイドにもかかわらず、風呂のシーンで「どうなさいますか?」とありますが、「如何なさいますか?」の方がより丁寧ではありませんか?作者のお里が知れますね
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