14『人間不信』
「盗賊退治とは儲かるものですのね」
これなら重点的に盗賊を討伐しても良さそうだ。
そしてアジトに踏み込めば、なお宜しい。
「おい、ルディちゃん。何を考えてる?
物騒な事を考えてるんじゃないだろうな?」
ジェラルディンの前には大きな袋が2つ置かれている。
片方には金貨1000枚、もう片方には金貨800枚が入っていた。
「これって、両替して頂く事は出来ませんか?」
「両替って……
こんな町に白金貨なんぞ置いてないぞ」
「いえ、違います。反対です。
金貨を銀貨や銅貨に崩して頂きたいのです」
兵士長は側にいた兵士に向かって合図し、手提げ金庫のようなものを持ってこさせた。
ここでは入町料を徴収するため、小銭はたくさんある。
「銅貨はともかく銀貨ならそれなりにあるから、待ってくれ」
兵士長は銀貨10枚ずつの山を次々と拵えていく。それが10になり20になり、50になったところで手が止まった。
「これでどうだろう?
銅貨の方は100枚くらいしかないなぁ」
「ありがとうございます。
これで充分です」
ジェラルディンは金貨51枚を取り出して両替を終えた。
これでもう、この町にいる理由は無くなった。
冒険者ギルドでの登録も急ぐ事ではないので、次に滞在する町でしようと思っている。
「では、本当にお世話になりました」
ジェラルディンは貴族としてそれなりの、人を見る目を持っていると自負している。
なのでこの詰所勤務の憲兵たちを見て、本当に信頼出来るのは兵士長とあと数人だと見ていた。
そう、彼女はあの宿屋での一件は、憲兵が噛んでいたと思っている。
ジェラルディンのようなひとり旅の女の子を狙って、今までも行われてきた犯行……あまりにも手馴れていた手口だった。
ジェラルディンは笑顔で席を立った。
「その、色々迷惑をかけたな。
元気でな」
ジェラルディンにとって初めての町の滞在は、ほろ苦いものとなった。
森の中は素材の山だ。
生活魔法【鑑定】を通して見ると、この旅の初めには見られなかった、個々の細かい情報も浮かび上がってくる。
「これは “ レベル ”が上がったという事なのかしら」
魔法を続けて使っていると、その技量が上がることがある。
それを “ レベルが上がる ”と言うのだが、ジェラルディンは初めて体験したのだ。
「何に使うかわからなかった小石の用途もわかったしね」
【鑑定】は小石に含まれている成分を分析し、鉄が含まれている石、塩が含まれている石などを素材として提示していたのだ。中には調薬に必要な素材である(特定の魔獣の胆石のようなもの)貴重な石もあって、ジェラルディンは歓喜していた。
「あら、何の音かしら?」
ずっと集中して採取していたジェラルディンは、衝撃音とそれに続く木が倒れるような音を聞いて立ち上がった。
かなり離れているようだが、そちらの方向に【鑑定】を使ってみると、どうやら魔獣と人間が入り乱れているようだ。
「あら、冒険者が魔獣と戦っているのかしら」
興味を覚えたジェラルディンは影の中に潜んで、現場に近づいていく。
そしてそれが見えてきた時、その見事さに溜息した。
「何て立派なカクタスバイパーなの。
ああ、お願いだから傷をつけないで!」
落ち着いたグリーンの大蛇、カクタスバイパー。
その胴体の太さは直径1mを超え、全長はおそらく20mはあるだろう。
それに冒険者5人組が挑んでいるのだが、正直言って分が悪い。
ジェラルディンはその戦いをゆっくりと影の中から見物していた。
ちなみに助けに入るつもりはまったくない。
「もし、変に懐かれたら困るもの。
さっさと決着つかないかしら」
ジェラルディンの人間不信は相当なものである。
元々貴族社会で生活していた彼女だ。
父親もアレだったので、本当に信頼できていたのは一握りの者たちだけだった。そして婚約破棄からの流れで、今このような状況にいるのだが、あの宿屋での出来事や、バジョナ百貨店店長の、その考えが見え透いている言動など、ジェラルディンが用心深くなってもしょうがないと言える。
「さて、そろそろかしら」
すでに5人のうち3人が倒れ臥して、それぞれ生命反応はない。
それを見て多少は胸が痛むが、自身のことを思うとなるべくトラブルの素は排除しておきたい。
だからジェラルディンは目の前の状況を成り行きに任せた。
……仮に彼らを助けた場合のリスクはかなり高い。
武器を持って戦うわけではないジェラルディンが魔法士イコール貴族だと知られた場合、その魔法を取り込もうとするのは確実で、どこぞの百貨店のように利用しようとするだろう。
だからこれからも、信用できるもの以外には気を許さないでいようと思う。
「カクタスバイパー……なんて綺麗なの!【収納】」
これでほぼ無傷のカクタスバイパーが手に入った。
足元に横たわる5人には悪いが、この場をこのまま後にする。
「これって “ ハイエナ ”って言うのかしら」
違うと思う。