139『50階層からの帰還』
ついに40階層に突入し、41階層に至る階段の代わりの扉の前に到着した。
「どうします?
まだ時間的には余裕がありますが、主人様がお疲れなら、ここで一泊という手もありますが」
「私は大丈夫よ。行きましょう」
ジェラルディンは懐に忍ばせた結界石の状態を確認し、結界の状況を確かめた。
ラドヤードはバスターソードを佩いでいる。
2人は視線で頷き合って、扉を開けて中に入っていった。
ボボボボッと音がして、壁際に並ぶ燭台に火が灯り、部屋の中を照らしていく。
そしてその一番奥には巨大な魔獣が蹲っていた。
「あれ、は?」
今回はお供がいない。
それはこの魔獣が単体でも驚異的だということなのだが……
ジェラルディンには敵が何かわからない訳だが、隙を見せるつもりはない。
もう、ラドヤードが何も言わないうちに一切合切を異空間に収納した。
「結局、あの魔獣は何だったのでしょう?」
ダンジョンがこの40階層のボスの死を確認したのだろう。
ボスが蹲っていた後ろに階段が現れ、ジェラルディンたちは41階層に向かって降りていった。
「では先ほどのボスを見て見ましょうか」
ちょっとした広場のようになった階段下で、ラドヤードが結界石を配置した内側でジェラルディンはボスの骸を取り出した。
「一体これは何なのでしょうね」
体長は5mほど。
体色は黒っぽく、被毛に覆われている。状態を見る限り獣系のようだが頭を巻き込むようにして横たわっているので確認できない。
そこでラドヤードが回り込み、バスターソードを梃子のように使って頭を出した。
「これは……オルトロス?
いや、ケルベロスの亜種か?」
本来なら一本だけの尾が2本あり、その尾自体が竜の顎を持っている。
ちなみにこの個体はそれぞれの口から炎のブレス、氷のブレス、雷のブレスを吐いて挑戦者を襲うのだ。
ただ今回は何もしないうちにジェラルディンにやられてしまったのだが。
「これで40階層も攻略成功ね。
今日はここで野営にして、明日からは50階層を目指しましょう」
そう、予想では次の転移魔法陣は50階層なのである。
ジェラルディンの能力があれば、30階層に戻るのも、50階層へ進むのもあまり変わらない。
今回の攻略は50階層まで、と目標を定めて、ジェラルディンとラドヤードは一応の祝杯をあげることにした。
とっておきのシャンパンの栓が抜かれ、ラドヤードの前にはグリルされたミノタウロスのロース肉が山積みになっている。
ジェラルディンは上品にグラスに口をつけながら、白身魚のムニエルに舌鼓を打っていた。
それから8日後、予想通り50階層に魔法陣を見つけたジェラルディンたちは、お互い頷き合ってその中に入った。
ブンと、気圧の変化を感じたように耳が鳴り、次の瞬間見慣れた岩石の洞窟が目に飛び込んできた。
そして魔法陣から足を踏み出し、入り口に向かって歩き始めた。
その姿に最初に気づいたのはどの監視人だったのか。
「おい!あれを見ろ!
転移魔法陣が稼動しているぞ!」
薄暗い洞窟の中、あまり人の行かない端の方で最初は淡く、そしてそれが段々と眩く光り始め、収まった後には小さな少女と大柄な男が立っていた。
「ルディンさんとラドヤードさん!
おかえりなさい!」
入り口付近にいた監視人が一斉に走り出す。
ジェラルディンはギョッとしながら、それでも暖かい出迎えに嬉しそうに微笑んだ。
そして2人の手からメダルを受け取った監視人が、それを魔導具にかけると50階層を提示する。
次の瞬間、外から駆け込んできた監視人も併せて大きな歓声が上がった。




