138『エステ・デ・ジェラルディン』
ジェラルディンとラドヤードはこの先も油断なく、結界石による防御とジェラルディンの探査を怠ることなく進むことにして打ち合わせを終えた。
そして2人は未知なる39階層に向けて歩み始めた。
「主人様、探査の様子はどうですか?」
「そうね、このあたりはそれほど密集していないようよ。
それなりに近づき次第、収納しているけど、念のためにラドも気配を探っていてね」
「はい、でもお疲れでしょう?」
「そんなことないわよ」
未知の魔獣と遭遇、討伐のあとジェラルディンはまたラドヤードに抱えられている。
ラドヤードとしては主人を歩かせるよりよほどしっくりくるので、知らず知らずのうちにペースが上がる。
「ラド、あちらの木の向こう、少し行ったところに5匹の群れがいるわ。
どのような魔獣かわからないけど背後を取られるのは嫌なので、サクッと収納してしまうわ」
この階層での最初の洗礼……ハリネズミトカゲ擬きのように隠形する魔獣だった時のため、なるべく討伐していくことにしたのだ。
魔獣の種類を確認することもせず、次から次へと “ 処理 ”していく。
この階層での体験は、いかにジェラルディンの影魔法がダンジョン攻略に有用か証明して見せたのだ。
「では、おやすみなさい」
今夜は39階層へと向かう階段の手前で野営していた。
簡単に夕食を終えたジェラルディンは、侯爵邸に転移する。
「お嬢様、おかえりなさいませ」
毎夜、ジェラルディンの部屋を調えるタリアが、ジェラルディンが転移して来たことに気づいて小走りに駆け寄った。
「タリア、ただいま……
今日はとても疲れたの。
マッサージしてくれるかしら」
すぐに侍女たちが呼ばれ入浴の準備が行われる。
その間ジェラルディンは蒸しタオルを顔面に当て、優しいマッサージを受けていた。
「とても気持ちよいわ。
今日は一日中探査をしていてとても気を使ったの」
「左様でございますか……
お嬢様、くれぐれも無茶なさらないで下さいね」
「ええ、今は毎日楽しく過ごしているわよ。
護衛のラドヤードも気を遣ってくれているし、今居る町は活気があって面白いの」
詳しくは語らないが、ジェラルディンが言っていることは事実だと思われる。
タリアはジェラルディンを浴室に誘うと、その素肌に磨きをかけた。
その後の全身マッサージは身も心も蕩かす心地で、その夜ジェラルディンは久々に熟睡することが出来たのだ。
早朝、溌剌としたジェラルディンが戻ってきて、ラドヤードはホッとしていた。
「おはようございます」
「おはよう、ラド」
そう挨拶を返したジェラルディンが、テーブルにボウルをドンと置いた。
「うちの料理長特製のポテトサラダよ。ラドによろしくって」
もうすでにボウルの中のポテトサラダに釘付けになってしまったラドヤードにスプーンを渡し、他の料理も出し始めたのだが、彼の意識は愛しいポテトサラダにしか向いていない。
「なるほど……玉ねぎの薄切りがアクセントになっているのね。
このハムもかなり良いものを使っているわね。
マヨネーズも酸味が絶妙なバランスでさすが料理長だわ」
こうして、ボウルから直接がっつくラドヤードを尻目に、ジェラルディンは紅茶と白パンとフルーツの朝食を優雅に終えたのだ。




