137『失敗と発見』
蟷螂に絡まった黒い棘がしなり、蟷螂の頭が段々と下がっていく。
最後には伏せの状態になった蟷螂の上に馬乗りとなり、ジェラルディンは【隷属の首輪】を装着した。
「さあ、おまえは私に従うのかしら?」
蟷螂の上から飛び退さり、棘を緩めたジェラルディンは顔を近づけ、覗き込んだ。
「キィィ〜ギィ」
鎌を動かし食いついてきそうな様子はとても従属しようとしているようには見えない。
そして、ミシリという音とともに棘が一本弾け飛んだ。
「駄目ね、これは」
ラドヤードの側まで下がったジェラルディンは、スッと目を眇めた。
次の瞬間、今までの倍以上の棘が影から飛び出し、蟷螂に襲いかかる。
「残念だったわね。
この蟷螂も傷だらけになってしまったし素材にもならないわ」
蟷螂の骸は放置に決定である。
「このくらいのレベルの魔獣ならひょっとして隷属できるかと思ったのだけど……やっぱり無理ね。
でも改めて思ったけど、ティム……習得出来るものならしたいわね」
しかし未練たっぷりのジェラルディンである。
マイペースで進む、ジェラルディンとラドヤードはその5日後、38階層に到達した。
「ボス階層でもないのに、どうして38階層なんて中途半端なところでやめたのかしら」
38階層に降り立ったジェラルディンがそう言ってラドヤードに向かって振り向いた時、そのすぐそばをかなりの速度で何かが通り過ぎた気配がする。
「主人様っ!そのまま」
ラドヤードが腰の長剣を素早く抜き、振りかぶる事なく刃を返した。
するとキンという金属音がして、足元に何かが落ちてきた。
「主人様、結界石は稼動してますよね?」
「ええ、ちゃんと作動しているわ。
それよりも、これは一体何なの?」
ラドヤードは今自分が弾き落とした “ それ ”を拾い上げる。
「どうやら “ 隠形 “出来て “ 飛び道具 ”を使える奴のようです」
ジェラルディンが慌てて探査すると少し離れた木の枝に、小型の魔獣が一匹いるのがわかった。
間髪いれずジェラルディンは、その魔獣を異空間に収納し、即座に周りに結界石を配置した。
「ラド、今襲ってきたのはこれよ」
摘まむように異空間収納から出してきたのは、まるでハリネズミのようなトゲのあるトカゲに似た爬虫類のようなものだ。
「何でしょうね。
俺も見たことのない魔獣です」
だがこれで納得がいった。
最深到達記録38階層。
ここには目に見えない殺し屋がいた。
おそらく何十年も前の先達の冒険者たちは、この魔獣にやられて撤退を余儀なくされたのだろう。
ジェラルディンのように探査出来なければ、この魔獣の討伐は気配を読むだけでは難しい。
体長は尻尾も合わせて50cm足らず。
死んだ今は棘が寝て、何とも貧相な見た目である。
「こんなのにやられたのか」
たしかに見えないところから飛んでくる棘は脅威だろう。
「ギルドに記録は残ってないのかしら」
「これはおそらく、当時のギルドが隠蔽したのではないでしょうか。
最深到達階層の更新という明るい話題にだけ光を当てて、大怪我をした当事者たちを隠したのでしょう」
もちろんいつまでも情報を隠すつもりはなかったはずだ。
だが、何かの間違いで貴重な情報が忘れ去られてしまったのだろう。
そして今、ジェラルディンたちがその身を以て、再発見したのだ。




