135『ダンジョンの不思議』
「さて、問題はここから30階層まで転移できるかどうか、ね」
そう言って、昨日魔法陣が現れた場所に行くと、今まで何もなかった場所に唐突に魔法陣が現れた。
「これはこれは。
転移できる可能性が高くなってきましたよ」
ジェラルディンの瞳が輝く。
そしてラドヤードを伴って魔法陣の中に入ると……
次の瞬間、見慣れた30階層の魔法陣にいた。
「やっぱり。
これで相互移動が確認されたわね」
この後ジェラルディンは、再び1階層に戻り結果を報告すると攻略を再開するために30階層に転移していった。
「これでダンジョン攻略がずいぶんと楽になるわね」
それには最低でも30階層に到達することが条件であるが。
それに次の転移点が何階層なのかもわかっていない。
なので今現在、この転移魔法陣を使える冒険者がどれほどいるのか想像できないのだ。
「しばらくの間は我々だけだと思いますよ」
何しろ30階層までたどり着かなければならない。
もしも、たとえば28階層あたりで力尽きたら万事休すなのだ。
「まあ、私たちはいつも通りね。
これから先が楽しみだわ」
ジェラルディンの異空間収納と影空間の収納は合わせると、ほぼ無限に収納出来る。
なのでまったく自重する気のないジェラルディンは、このダンジョンに出現する魔獣種をコンプリートするつもりでいる。
「ではラド、サポートお願いね」
それからのジェラルディンはまるで何かに取り憑かれたように魔獣を収納していった。
そう、一切戦闘にならない。
ラドヤードは有事の際の護衛にすぎず、ジェラルディンが認識した魔獣はすべて収納空間に収められていった。
「主人様、疲れてませんか?
少し休憩しましょう」
今はまだ31階層にいる。
ジェラルディンが自ら徒歩で進んでいるので、攻略のスピードがぐんと落ちたのだ。
「そうね、お茶にしましょうか」
結界石を配置して簡易の休憩所を作ったラドヤードはそこにテーブルと椅子を取り出した。
ジェラルディンは淹れたての紅茶の入ったポットを取り出し、侯爵邸の料理長が焼いたマドレーヌを皿に盛る。
こんな、魔獣が闊歩するダンジョンで簡易のお茶会が始まった。
ジェラルディンたちがダンジョン攻略を再開して7日経った。
ようやくその頃【死の舞踏】の連中がダンジョン入り口に現れたのだがその姿は酷いものだった。
リーダーのイレミアスを始め、その体に包帯を巻いていないものはいない。
そしてその包帯は滲んだ血や泥で汚れ、足取りは重かった。
「皆さん、大丈夫ですか!?」
ようやく外からの光が差し込む場所に来て、パーティーの連中が1人、2人としゃがみこんでいく。
その場に駆けつけた監視人たちは、すぐにメダルを回収してその階層を確かめた。
「20階層……
ボス戦、失敗したのか?」
ボスを攻略したのなら、その後ろの階段を降りて21階層に至るのが必然だ。
それが、20階層のままと言うことはボス戦を失敗してボス部屋から敗走したということだ。
「あ、ああ……」
「その怪我……
回復薬やポーション、持ってないのか?」
イレミアスがかぶりを振る。
「外の商人から買うか?
それなら呼んで来るが」
監視人たちの肩を借りて、ダンジョンから出たイレミアスが後ろを振り返る。
その目にはボスに対する畏怖の気持ちと、準備不足で挑んだ後悔、自分たちがこの後どういう目で見られるかという怯え、その他諸々のものが浮かんでいる。
そして再挑戦のためにもこのパーティーを立て直さなければならない。
外の広場に張られたテントの中で、気が抜けて放心した【死の舞踏】の連中は、勧められるまま回復薬を口にしていたが、回復薬自体の回復力が低いのと、怪我をして日にちが経っているので治りが悪い。




