134『でも最後は美食』
「やはり何か……変だわ」
ダンジョンの入り口での監視人からひとしきりの祝福……これは久々の30階層到達者である事を受け、ギルドカードへの登録と共にギルドに提出するようメダルを押し付けられ、またギルドでも騒ぎになって、ようやく戻ってきた家でジェラルディンは顔を曇らせる。
だがそのまま2階の自室に着替えに行き、そして違和感の正体を知った。
「あら?
たしかここに置いていたはずの……香油の小瓶はどうしたのかしら?」
ほとんどこの部屋で眠らないとはいえ、ベッドメイクはしてあるし、ドレッサーの前には侯爵邸から持たされた、化粧品が並んでいる。
ジェラルディンはその中の、ほんの小さな小瓶ではあるが、見当たらない事に首を傾げていた。
お気に入りの香油にはこだわりがある。
なので出発前夜、侯爵邸に持って行ったのかと、無理やり自分を納得させて、冒険用の服を脱ぐ。
そしてそれに【洗浄】をかけるとアイテムバッグに仕舞い込んだ。
そして階下に降りて行くとラドヤードも難しい顔をしていた。
「主人様、俺の考えすぎかもしれないが、出かけた時と何か違う」
「それって、私たちの留守中に誰かが入り込んでいるということ?」
「考えたくないですが……」
ラドヤードは今までの習慣と危険物があるため、部屋の施錠は欠かさないが、元よりジェラルディンには施錠という習慣はない。
なので玄関に関しては鍵をかけるが、それもラドヤードが行うことが多いのだ。
「何か気持ちが悪いわ。
今日は外で食べましょう?」
すぐに2人は家を出て、行きつけの【英雄の帰還】のレストランに向かった。
「予約をしていないのだけど、お願いできるかしら?」
出迎えた支配人に、ジェラルディンが強張った笑みを浮かべ話しかける。
支配人は優雅な礼をして、ジェラルディンたちを奥の席に案内した。
「ちょうど良うございました。
今宵のメインの肉料理は隣国に現れた【ドラゴン】の尾肉です。
ルディン様には是非召し上がっていただきたいと思っておりました」
柔和な笑みを浮かべて支配人がエスコートする。
「まあ、ドラゴンですか?」
これは滅多にお目にかかれない、希少な肉だ。
貴族でもそうそう手に入らず、ジェラルディンも話には聞いていたが、食するのは初めてである。
「まあ!
何て運が良いのかしら。
私たち、今日ダンジョンから帰ってきたのよ」
「それはよろしゅうございました。
ごゆっくりお楽しみ下さい」
ここに来るまで気分は最悪だったが、今宵の特別コース料理に舌鼓を打ち、幾らか気分が高揚する。
「ねえ、ラド。
ここのダンジョンにはいないのかしら、ドラゴン」
「そうですね。階層ボスにレッサーが出ましたがどうでしょう?
ここの最深到達階層は38階層だそうですが、もっともっと深くに行けばあるいは」
「私、もっとこのお肉を食したいです。ドラゴンが見つかるまでダンジョンから出ません」
ジェラルディンのドラゴンブームが始まった。
そしてこの事で家に関するモヤモヤが霧散し、翌朝そのままダンジョンに向かうことになる。




