13『手榴弾と褒賞金』
この洞窟は自然のものに、大人数が暮らせるように手を加えたもののようだ。
ジェラルディンは生活魔法の【ライト】を使い、視界を得て奥に進んでいく。
途中に2人、盗賊の骸があったが、ジェラルディンの興味は引かなかったようだ。
「あまり良い生活環境とは言えないわね……
ああ、このドアっぽいわね」
今までなかった扉で仕切られた部屋があった。
中に生き物の気配はない。
「では、オープン!」
中は想像通り、盗賊団が略奪したお宝が山積みになっている。
まず目に付いたのは木箱に一杯に詰まった金貨の山だ。
そして宝飾品や宝石が散りばめられた短剣など、見るからに高価な品々。
あとは布や絨毯、塩、胡椒、鍋などの生活用品、魔導具もあるようだ。
「……何か、襲った馬車に積まれていたものすべてを持ってきているみたいね。まったく一貫性がないわ」
ジェラルディンは、それでもこの部屋にあるすべてのものを異空間収納に収めると、他の部屋も見て回った。
もちろん、平の盗賊たちは大したものを持っていない。あって金貨くらいで、ジェラルディンはそれも有り難く頂いた。
奥まった場所にあった頭の部屋には、やはりお宝と言えるものがたくさんあって、ジェラルディンはそれも収納していく。
「あとは隠れ家に帰ってゆっくりと確認すれば良いわね。
この洞窟は潰してしまいましょう」
ここでジェラルディンは自身が開発した新しい魔導具をテストすることにした。
これは魔素を含む岩石を一度粉末にして、着火しやすい粉末……これは初期の火薬に近いもの、と爆発性を持つ岩石を細かく砕いたものを丸く纏めたものに魔力を通し、ある一定の刺激を与える事で爆発するようにした魔導具である。
ジェラルディンはこれを配合と込める魔力の量を変えて、何種類か作っていた。
今回、洞窟を崩落させるために一番威力の高いものを選ぶ。
「そーれ!!」
何とも締まらない掛け声と共に、大爆発を起こして洞窟の入り口は崩落した。その副産物である、ものすごい土煙にジェラルディンは辟易した。
「まあ、これはしょうがないわね。
魔導具としての実験は成功ね。
冒険者に売り出したりしたら儲かるかしら」
ジェラルディンが扱う品物が、命を助ける魔法薬と命を損なうかもしれない手榴弾もどきとは皮肉なものである。
「でも、使い方を誤らなければ、魔法が使えない平民にはとても有効な武器になると思うのよね。
ただ、どこにでも馬鹿はいるのよね」
やはり懸念するのは、対人間に使われる事だ。そして最大の問題は衝撃に弱すぎて持ち運びに難がある事。
さすがに手元から落とした程度では爆発しないが、例えば魔獣と戦っていて吹き飛ばされたりした場合は……誤爆するかもしれない。
「まあ、ある程度儲かったから、今夜は隠れ家でゆっくりして、明日は採取しながら町に戻りましょうか」
ようやく土煙が晴れたなか、ジェラルディンは上機嫌で影の中に潜っていった。
「ルディちゃん!!」
ジェラルディンがこの町に来て3日目の夕刻、予定通り採取を終え門に着くと、目を血走らせた兵士長に出迎えられ即座に拉致された。
「どれだけ心配したことか」
詰所の待合室で椅子に座らされ、回りを兵士長だけでなく数人の兵士たちに囲まれている。
「……野営するって言って行きましたよね?」
兵士長も彼女が容易くやられるとは思っていない。
出身は明かしていないが、ここまでひとり旅をしてきているのだ。
森で野営しても危険に晒されない魔法か魔導具を持っているのだろう。
そのあたり、わかってはいるのだがやはり感情はついていかない。
「それでもだ。
冒険者だって森で野営するときはパーティーを組んで、夜通し見張りを立ててだな」
兵士長の話を遮って、もういい、といった様子で手を振るのは、まさしく貴族の所作だ。
「それよりも褒賞金はまだですか?
これ以上トラブルに巻き込まれたくないので、私は1日でも早くこの町から出て行きたいのですけど」
サラリと言ってのけたジェラルディンの目は冷たい。
「お、おお、お待たせした。
先ほど役所から届いたんだ」
今まで【真紅の狼】は傍若無人に暴れ回り、かなりの被害を出していた。
「まず、盗賊に掛けられた賞金は一律、ひとり頭金貨10枚で、これが30人で金貨300枚。
盗賊団【真紅の狼】に掛かっていた賞金が……これが長年膨れ上がっていて金貨500枚。
それから頭に掛かっていたのが金貨1000枚……家族を殺された、大店の商家が懸賞金をかけていたようだな。
合計金貨1800枚だ」
びっくりな金額である。