12『バジョナ百貨店店長との話し合い』
「まずは先日、取り乱していたとはいえそちらに一言の礼もなくご無礼つかまつった。誠に申し訳ない」
改めて引き合わされたのは昨日、バジョナ氏に縋り付いて泣いていた男(店長)ともう1人、大番頭だ。
「いえ、突然このような事になったのです。故人を悼んで当然です」
ジェラルディンは多少警戒しながら言葉を返した。
「まずはお礼を申し上げます。
この度は当店の主人バジョナを家族の元に返していただき、誠にありがとうございました」
2人が揃って礼をする。
この世界ではこういったケースの場合、まず遺体は戻ってこない。
今回のように盗賊に襲われたり、魔獣に襲われた場合、よほど運が良く直後に誰かが通りかかった場合その場に埋葬してもらえれば御の字なのである。
バジョナ氏一行の場合はジェラルディンが丁重に遺体を移動し、なおかつ運搬途中だった荷も無傷であった。
その荷の権利も本来ならジェラルディンにあるのだが、それも放棄するという、バジョナ百貨店側としては何か裏があるのではないかと勘ぐってしまうほどの好条件なのだ。
「先ほど兵士長殿からもお聞きしたのですが、本当に荷の権利を放棄されるのでしょうか?
わたくしどもにはお支払いする意思があるのですが」
「ええ、それは構いません。
私は運んできただけですし、何の手間もかかっていないので」
欲がなさすぎるのも困惑してしまう。
店長と大番頭は顔を見合わせた。
「では、これならどうでしょう?
ルディ嬢はこれから領都に向かわれるのですよね?
よろしければわたくしどもと同行なさいませんか。
領都の本店で是非お礼をしたいのです」
「申し訳ないのですが、私は普段森で素材の採集をして日々の糧としております。
そろそろ素材の採取をしたいと思っておりますので、同行はお断りします。
お心遣いありがとうございます」
「では、せめて滞在中は当家にいらして下さいませんか。
大したもてなしは出来ませんが、どうか」
そのしつこさがジェラルディンには理解出来ない。
「申し訳ないのですが、この後、森に入るつもりで居ます。
褒賞金を受け取った後に領都に向かうつもりなので、その時お会いしましょう」
「しかし……」
「店長さん、もうそこらへんにしておいたらどうだい?
ルディ嬢にはルディ嬢の生活があるんだ。領都に行ったら寄るって言ってるんだからもう諦めろ」
見かねて間に入った兵士長に諭され、店長は渋々認めたようだ。
このあとジェラルディンは丁寧な挨拶をして詰所を後にしていった。
そして残された2人に兵士長は苦笑する。
「あんたたちもわかっているだろうが、あの娘は訳ありの貴族、もしくは元貴族だ。
あまりしつこくしない方がいい」
「やはりそうなんですね。
いくら何でもあの収納能力は異常ですよ。出来れば取り込みたかったですね」
「それを感じて逃げたんだろうさ。
彼女は昨夜、泊まった宿屋で襲われたばかりだからな。
今はどんな人間も信じられないだろうよ」
「宿で襲われたって……」
「寝ていたら鍵を開けて入って来たそうだ。
まったく、ひとの面子を潰しやがって。
……とりあえず、あまりあの娘に構うなよ」
「それでもやっぱり惜しいです」
詰所から出たジェラルディンは、一目散に駆け出して森に飛び込んだ。
そのまましばらくは走り続け、ある影の中に吸い込まれるように消えていった。
「やっとここに来ることができたわ」
ジェラルディンは今、とある洞窟の前の木の影の中から様子を見ていた。
入り口には男が2人、傍の酒瓶をラッパ飲みしながら見張りをしている。
洞窟の中にもまだ数人いるようだ。
「面倒臭いからサクッと行っちゃいましょう」
本当にサクッと。
影から伸びた鋭い棘が盗賊たちの身体を貫いていく。
悲鳴すらあげる余裕もなく串刺しとなった盗賊の成れの果てを尻目に、ジェラルディンは中へ入って行った。
この盗賊のアジトである洞窟は、昨日盗賊団で最後まで生かしておいた男から聞き出した。
大まかな情報であったので少し探したが、無事見つかったので気分が良い。
それから件の、ここを教えてくれた男はちゃんと “ 解放 ”してあげた。
もちろん、この世から。