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119『日常に向けて』

「ずいぶんな金額になりましたけど大丈夫でしょうか?」


 とてもそんな大金が置いてあるようには見えない店構えである。

 失礼だが分割払いもあり得るかと思っていたところ、ラドヤードが小声で囁いた。


「鍛冶屋は仕入れの金額が大きいのでそのくらいなら随時持ってますよ。

 今、その程度を支払ったとして、すぐに何倍、いや10倍くらいになって戻ってきます」


「その通りだ。お嬢さん」


 バルトリがぱんぱんに膨れた布袋をカウンターの上に置いた。


「まあ、本当?」


「ただ次は少し間を置いて買い取らせてくれ。

 さすがにこれ以上は身の丈以上ってもんだ」


 もうポリは鍛冶場にこもってしまい、こちらには出てこない。


「お嬢さんたちが帰ったらすぐに店を閉めて、早速取り掛かるつもりでいる。久しぶりに創作意欲が湧いてきたぜ」


「まあ、そうですの?

 私も楽しみですわ」


「そうだ!お嬢さん。

 連絡先を教えてもらえないか?

 ひと段落ついたら知らせるからよ」


「あら」


 ジェラルディンは首を傾げた。

 そう言えば借家の住所を聞いただろうかと記憶をさらってみる。


「困ったわね」


「主人様、俺が代わります。

 ……親方、我々は先日この町に来たところで地理にあまり明るくない。

 今は宿に泊まっているが、3日後には借家に移る予定なのだ。

 そこまでの道順をどう説明すればよいのかわからないので、ナナヤタ不動産に連絡してくれないか?

 もちろんあちらにはその旨、伝えておく」


「わかった。

 この町の鍛冶場にダンジョン鋼(鉄)が卸されるなんて何年ぶりだろう」


 もう気持ちはあちらの方に向いているようだ。

 ジェラルディンたちが出たあと、忘れずに鍵をかけて、ちゃんと食事を摂るか心配だ。


「では、次にお会い出来るのを楽しみにしているわ」


 バルトリはもう誰の声も聞いていない。

 建て付けの悪い扉を無理やり閉めて、すぐに鍵をかけると駆け出した足音が聞こえてくる。

 ジェラルディンはラドヤードと顔を見合わせて笑ってしまった。




 前日鍛冶屋で時間を取られてしまったため行く事が出来なかったギルドに、朝のゆっくり目の時間になってジェラルディンたちはやって来た。

 普段からギルドはこのくらいの時間になると冒険者の姿もまばらになり空いているものだが、今日はギルド職員以外人っ子ひとり居ない。

 これは件の【銀狼の咆哮】への捕縛、討伐依頼のせいだが、ジェラルディンたちは知るすべもなかった。


「おはようございます。

 ルディン嬢、先日の素材の報酬を用意してありますので、どうぞこちらに」


 バルタンがカウンターの向こうからやってきて、奥の個室に誘われた。

 ジェラルディンが納品した素材は魔獣丸ごとだったので、依頼品以外の査定に時間を取られたのだ。


「依頼品を含めとても状態が良かったので報酬に上乗せがあります。

 特に毛皮に一切傷が無かったのですが、一体どうやって倒されたのですか?」


「うふふ、秘密ですわ」


「まあ、そうですよね。

 ではこちらが今回の明細書です」


 それから簡単な説明があり、今回の報酬が支払われる。

 金貨38枚と銀貨7枚、冒険者としてはそれなりの金額だが、先ほどの剣を売った金額に比べると、正直しょぼい。

 それからラドヤードがまた依頼票を取ってきて、それに相当する魔獣を解体場に出して預かり票をもらう。

 しばらくは、これの繰り返しになるようだ。


「それからルディン嬢、今ダンジョンでネズミ捕りをしているので、しばらくはダンジョンに潜らないようお願いできますか?」


 ジェラルディンはびっくりしたように掌で口許を覆い隠した。

 それは貴婦人が扇でする仕草にそっくりだ。


「ええ、ええ、ネズミ捕りなんてしている場所には近づきませんわ。

 でもそれはいつ頃終わるのでしょう?

 私、ダンジョン行を楽しみにしていますのに」


「数日で済む予定です。

 ダンジョン行が再開されたらすぐにお知らせします」


「ありがとう。よろしく頼みます」


 何も知らないのはジェラルディンだけである。


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