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110『レストラン』

 ジェラルディンたちの泊まる高級宿のレストランは、昼に来たときとはまた違った趣きで飾られていた。

 魔導具のシャンデリアが煌めき、所々で品の良い笑い声があがっている。

 宿泊客だけではなく、この町の上流階級の人々が着飾って集っていた。

 そんな中、ラドヤードと共に予約席に着いたジェラルディンは軽めの食前酒に口を付け、目だけで周りを見回していた。


「こういうのもたまには良いですね」


 レースをふんだんに使ったクラシカルなドレスは明るい赤色で細身のシルエットだ。

 夜会服にはいささか大人しいデザインだが、ディナーなら申し分ない品だ。

 首元にはミスリルのデザインネックレス、所々に小さいが質の良い宝玉が散りばめられている。

 ラドヤードの方は厚手のアラクネ絹のサーコートを着ている。

 下に着ている長袖のシャツは暗黒蜘蛛の糸を鎖帷子に編んだもの、ズボンはオーガの革を使ったレギンスだ。


「そうですね。

 俺は……慣れました」


 ラドヤードは上級冒険者だったのでそれなりのマナーの心得はあった。

 だがそれを普段の食事で生かすのは話が違う。

 だが今は多少ぎこちないがそれなりだと自分は思っている。


 取り留めない噂話やギルドの掲示物、そして趣味の話などしていて、ディナーのコースが終わりに近づいていたとき、2人のテーブルにふらふらと近寄ってくるものがいた。

 その男が通り過ぎようとするとき、いきなりジェラルディンたちのテーブルの、まだ食器がのっているテーブルクロスを思い切り引っ張った。


「きゃ!」


 目の前で足許に落ちていく、デザートの金華樹の皿。

 ガシャンガチャンと落ちていく陶器やカトラリーを呆然として見ているジェラルディンを庇うように、ラドヤードは椅子ごと主人を後ろに下げるとその前に立ちはだかった。


「おいおい、どうしてこんなところで奴隷が飯食ってるんだよ!?

 生意気なんだよ!」


 どうやらラドヤードに絡んできたようだ。

 そのラドヤードは剣こそ抜かないが、左手のアダマンタイトの手甲を前に構えをとった。

 その後ろではもうすでにレストランのウェイターたちが駆けつけていて、ジェラルディンを安全な場所に案内し、足許の割れ物を片付け始めている。

 そこに、今喚いている男よりも身なりの良い冒険者が駆けつけてきた。


「やめろ!バルバル。一体何やってんだ!」


「こいつが! 奴隷のくせに!

 生意気にっ!」


「それが何だと言うの?

 主人である私が許して、こちらの宿屋から注意を受けたこともないわ。

 ドレスコードも問題ない。

 むしろあなたの方が見苦しいわね」


 ウエイターたちが止めるのも聞かず、ジェラルディンは元のテーブルのところまで戻ってきて男を睨みつける。


「ご令嬢、お食事の邪魔をして申し訳ない。

 こいつにはちゃんと言って聞かせるので」


「野良犬の躾はちゃんとして頂きたいわ」


 食事を邪魔されて……いやデザートを食べ損ねて、ジェラルディンはとてもご立腹だ。

 そんなところに他の冒険者たちが現れ、バルバルと呼ばれた男を引っ張っていった。


「改めて謝罪させていただく。

 本当に申し訳なかった。

 この場の後始末はうちが持たせてもらう」


 当たり前だろう、とジェラルディンはこの冒険者パーティーのリーダーと見られる男を睨め付けた。

 そして興味を失ったように踵を返す。


「ラド、お部屋に戻ります」


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