11『詰所に避難』
「夜分恐れ入ります」
そう言って入ってきたのはまさしく今しがた噂していた少女だ。
そしてその少女は、薄手の白い寝間着に大判のストールと言う、とてもこんな時間に外をうろついてよい格好ではなかった。
「ルディちゃん……一体。
それよりもこんな時間にどうやって」
「あの、私……宿の部屋で休んでいたら、鍵を開けて男の人がふたり入って来たんです。
その人たちは私を……売るって言う話をしていて。
怖くて……それでここに逃げてきました」
目の前の少女が、恐怖のあまり震えている。
兵士たちは戸惑いの方が大きくて、そんな中、兵士長が奥の部屋に招き入れた。
小さくてもルディは淑女だ。こんな、男の目のあるところに突っ立たせておいてよい人物ではない。
若い連中は色々聞きたそうにしているが、何時間か前に調書を取った部屋の椅子を勧めた。
そしてゆっくりと話し始める。
「ルディちゃん、君は魔法士だね?」
これは暗に『貴族か?』と聞いてきたのと同義である。
ジェラルディンはコクリと頷いた。
兵士長としては、もうこれで十分だった。彼女は隠形系の魔法もしくは魔導具を使って逃げ出してきたのだろう。
そして貴族の令嬢がこんな所にひとりでいるなど、訳あり以外の何ものでもない。
「怖かっただろう?
変な宿を紹介してしまって悪かった」
自分たちが紹介した宿で行われた暴挙を許すことなどできない。
腹わたが煮えくりかえった状態だがジェラルディンを怖がらせるわけにはいかないので愛想よく振舞っていた。
だがもし、ジェラルディンが自分を疑っていた事を知ったら立ち直れないほどショックを受けただろう。
「あの、私……朝になったらもう立ちます。例の褒賞金ももういいです」
「ちょっと待ってくれ!
そういうわけにはいかないんだ」
こういう褒賞金の計算には普通3日ほど掛かる。
その間待つ事自体、おぞましく感じるジェラルディンは、今すぐ影空間に引っ込みたい気分だった。
結局朝まで詰所にいたジェラルディンは、兵士たちが止めるのも聞かず森に採取に向かうことにした。
ジェラルディン的には昼の間【隠れ家】でゆっくりしようと思っている。
「引き止めるのならちゃんとした宿を調達してくれたらよいのに、それもなし。
地方の宿ってこんなものなのかしら」
真面目に商売を営んでいる宿屋からすればとんでもない言いがかりだが、何しろ最初に泊まった宿がああだったのだ。ジェラルディンに罪はない。
「本当にこのまま行ってしまおうかしら……」
その頃、主人の死からようやく我にかえったバジョナ百貨店の店長が、恩人であるジェラルディンを探し始めていた。だが本人はもうこの町に辟易していたのである。
でも、そんなジェラルディンにバジョナ側から提案があった。
今回の件の礼がしたいので、領都まで同行しないか、と言うのだ。
これは憲兵団を通して正式に提案してきたのだが、ジェラルディンは丁重に断った。
その代わり、一度憲兵詰所にて話し合いをする事になったのだ。