108『内見』
「まずひとつ外せないのは」
ある程度物件の説明が終わったところで、ジェラルディンが言葉を挟んだ。
「主人の生活区画の他に、使用人の生活区画にも入浴施設がある事です。
専用の湯槽がなくても構いませんが、排水できる個室が必要です」
ジェラルディンはちらりとラドヤードを見て言った。
「なるほど。
ルディン嬢の生活空間と護衛の方の生活空間を分けると言う事ですね?」
これがいつも一緒にいる冒険者パーティーならたとえ男女混合でもさほど問題にならない。
だがジェラルディンとラドヤードは完全なる主従である。
「そうなると、お2人で住むには少々大きな物件になりますが、よろしいでしょうか?」
「条件さえ満たされていれば、構いません」
ラナバルは机上の紙を一つに纏め、そして立ち上がった。
「少し失礼させていただきます」
ジェラルディンの示す条件がグレードアップした事で、物件を新たに選定しにいくのだろう。
「二度手間をおかけして申し訳ないです」
ジェラルディンが困ったように眉尻を下げる。
だが反対にラナバルは高揚感にあふれていた。
「いえいえ、ルディン嬢。
これは大きな契約になりそうですね」
ラナバルは秘書らしい男を従えて、慌てて部屋を出ていった。
「要らぬお時間をいただき、誠に申し訳ございませんでした」
ジェラルディンがゆっくりと紅茶を嗜んでいる間に大急ぎで用意してきたのだろう。
秘書の手には見るからに今までのものとは違う、冊子に近いものがあった。
「先ほどの条件に合い、なおかつダンジョンからあまり離れていない物件を選んで参りました」
そこから改めて説明が始まる。
ジェラルディンは身を乗り出すようにして、話に聞き入っていた。
目まぐるしく変わる状況について行けないのは当事者以外の者たちだ。
先ほど説明会が終わり、すぐに馬車が用意され、今は現地に向かっている。
そこは以前は貴族の別邸であった屋敷で、今は売りに出されているのだと言う。
「この屋敷をお持ちだった貴族様はとても冒険者に憧れてらして、こちらにはダンジョン探索のために滞在なさっていました」
と、言うことはそのためにこの屋敷を調えたことになる。
「ご自身の生活区画はもちろん、お抱えの冒険者たちが滞在していた部屋もあります。
もちろん彼ら用の浴室もあります」
聞けば聞くほどおあつらえ向きの物件に思える。
見学が楽しみで仕方ない。
結果、ジェラルディンは外観を一目見ただけで気に入った。
あとはラナバルの説明を聞きながら、主に水回りを見学し、ラドヤードの意見を聞いてここに決める事にした。
ちなみに今まで、一切金額の話はしていない。
「ラナバルさん、もう他の物件の内見は結構です。
こちらでお願いします」
そしてナナヤタ不動産に戻って契約の締結。そして賃料他の支払いとなるのだが、ここでラナバルがある提案をする。
「ルディン嬢、思い切ってお買い上げになりませんか?」




