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107『ナナヤタ不動産』

「うふふ、もう一年になるのね」


 季節はもう少し進んでいたが、今日と同じような薄曇りの日だった。

 初めて借家を借り、そして間なしに奴隷……ラドヤードを買った。

 あの日からもう季節がひと回りしたのだ。

 すぐ後ろでラドヤードが無言で従っている。

 ジェラルディンは今、ギルドの下っ端職員の案内で紹介された不動産屋に向かっていた。


「この町はすごいわね。

 私の祖国の王都でもこれほどではないわ」


「俺の国もです。

 仕事柄色々なところに行きましたが、ここまでの規模のところはありませんでした」


「そうでしょう?」


 前を歩いていた少年が振り返って嬉しそうに言う。


「クメルカナイは元々寒村の近くに出来たダンジョンだったんです。

 そのダンジョンの周りに村が出来て、それが段々と広がっていったのが今に至ってるんです」


「なるほど、それで多層構造の都市なのね」


 このダンジョン都市はその発展に比例して層を増やしてきたのだ。

 そしてこれからもその可能性を秘めている。


「さて、着きました。

 こちらがギルドとも取り引きのある【ナナヤタ不動産】です。


 こんにちは〜 お客さんを案内してきました」


「話は聞いています。

 ようこそいらっしゃいました。

 私が店主のラナバルです。

 ルディン嬢ですね?」


「はい。

 ルディンと申します。

 今日はよろしくお願いします」


 ラナバルはジェラルディンたちを応接室に案内し、本日の商談を始めた。

 ここまで案内してきた少年はもう帰されている。


「バルタンから話は聞いています。

 冬の間滞在する借家をお探しとか。

 ダンジョン探索と治安から第一層が良いと思いますが、いかがですか?」


 ジェラルディンも移動するごとに馬車を必要とするのはごめんである。

 ここは速攻で頷いておいた。

 確かめたのちラナバルは何枚かの紙を並べて見せた。


「厳冬期直前なので、手頃な物件はすでに貸し出されています。

 ここにあるのは多少お値段が張ると言うことで敬遠されていた物件です」


 ダンジョン都市であるクメルカナイでは、冬の間ダンジョンで稼ごうとやって来る冒険者が多い。

 その中でも中級以上のパーティーは宿代を節約するために家を借りるのだ。


「ダンジョンに歩いて行けて、冒険者ギルドからもそれなりに近い。

 市場などの生活に必要な施設からも近いとなると限られて来ます」


 並べられた紙の中から一枚がずい、と差し出された。


「まずはこちら。

 第一層のギルドなどがある表通りから二本入ったところにある物件です。

 ここは元々裏通りで商いを営む商人の自宅として建てられたもので、現在は第二層の表通りに移転したので売りに出ています。

 ただやはり高額なので借家として貸し出すことがつい先日決まりました。

 保証金が金貨100枚、そのうち80枚は最終的にお返しします。

 賃料は1ヶ月金貨30枚です」


「お話を伺ったところでは、第一候補のようですね。

 他の物件のお話も聞かせて下さる?」


「はい。次はこの物件ですが……」


 説明は続いていく。


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