105『クメルカナイ』
ダンジョン都市、人によっては迷宮都市とも言う。
今回滞在する、このクメルカナイはダンジョンを取り巻くようにして発展した、街中にダンジョンの入り口があるタイプのダンジョンだ。
このタイプは一旦スタンピードが起きると町の滅亡を意味するので、冒険者ギルドは普段から多数の冒険者を抱えていた。
このダンジョン都市の規模は、実は領都と比べても遜色なく、5層の城壁に囲まれたその造りは他のどの町よりも堅牢である。
そこの一番外側の中央門の前に、ジェラルディンとラドヤードは並んでいた。
「思ったよりも順番待ちの列が長いわね。荷馬車も多いわ」
「そうですね。
これだけの町です。食料などの搬入もこれからのことを考えれば多くなるでしょうね」
季節は晩秋であり、いつ雪が降り出してもおかしくない気候だ。
ジェラルディンも厚手の外套を着用していた。
「しかし立派な城壁ですね」
目の前にそびえ立つ城壁は、ジェラルディンの祖国の王都のものよりも頑丈に見える。
その奥行きはおそらく15mはあるだろう。それは石造りの建物が町の周囲をぐるりと取り囲んでいるのと同じである。
「お嬢さんたちはこの町は初めてかい?」
ジェラルディンたちのすぐ後ろに並んでいた、見た目冒険者ではない男が声をかけてきた。
「はい、私たちは色々な国を巡っているものです。
ここには冬を越すために参りました」
「それはいい判断だね。
ここのダンジョンは街中にあるので真冬でも潜ることが出来るし、中層まで行けば身入りの良い魔獣も出てくる。
ぜひ良い素材を卸してもらいたいもんだ」
どうやら彼はその系統の商人のようだ。
いささか厚かましいところもある男だが、商人ならこんなものだろう。
ジェラルディンは適当に話を流しながら、順番待ちの暇を潰していた。
「次の者、こちらへ」
順番を早く流すために、何組かの兵士が捌いている。
そのうちの1人に呼ばれて、ジェラルディンとラドヤードはそちらに向かった。
「ようこそ、クメルカナイへ。
ここには初めての訪問ですか?」
ジェラルディンたちは頷いてギルドカードを渡した。
「2人とも冒険者ですね?
ここには越冬のためですか?」
慣れた対応の兵士は笑いながらギルドカードを返してきた。
「はい、そうなのですけど、まずはギルドに行ってその後宿を探したいと思っています」
「冒険者ギルドは何ヶ所かありますが、あなたたちは第一層のギルドがいいでしょう。
ちなみにここは第四層の中央外門です」
兵士は慣れた手つきで側の石板を取り、そこに書かれた図を指し示した。
「歩いて行くには距離がありますので、この先の馬車の停留所から第一層まで行けばギルドはすぐにわかると思いますよ。宿に関してもギルドで聞けばお勧めを教えてくれるはずです」
「わかりました。どうもありがとうございます」
こうしてジェラルディンとラドヤードは無事クメルカナイに到着した。
「よう、お嬢さん。
ここはあんたみたいな “ お嬢様 ”が来る場所じゃないぜ」
見事にお約束の対応である。
ここは兵士に紹介された、第一層の冒険者ギルドである。
その規模は今まで見た事がないくらい大きく、3階建の本館の他に別館がいくつも付随するものだった。
そこでジェラルディンは、いの一番に近づいてきた身なりの汚い冒険者に絡まれている。
白けた目で相手を見て、彼が一体何を言いたいのかそれを待っていた。
身なりの汚い男の不幸はギルド内が混み合っていて、一見したところジェラルディンが一人に見えた事だろう。
「よければ俺らが案内してやるよ。
だからお嬢さん、こっちに……」
毛むくじゃらの汚い手がジェラルディンに伸ばされた瞬間、今まで感じられなかった殺気が膨れ上がり、鞘に入ったままの長剣が男の手を弾く。
そこには男よりも頭一つ大きなラドヤードがジェラルディンを庇うように立っていた。
男は自分が、声をかけてはならないものにかけたことを後悔した。




