104『ダンジョン都市へ』
鉱山地区の隔離は解けていないが、あちらのギルドから鑑定士を派遣してもらい、まずは教会近くのスラム地区から感染者がいないか探索を始めた。
おそらく普段の状況から、自ら孤児院を訪れた女の子を除いて、孤児たちと関わるものが少なかったことから可能性は低いとされている。
スラム地区といわゆる下町とは簡単な造りだが塀で区切られていて、出入り口は数カ所である。
少なくとも下町側からの入場者はチェックされていたのでその関係から捜査していったようだ。
もう元は絶ったのであとはていねいに捜索して行くだけだ。
この時点でこの件はジェラルディンの手から離れ、彼女らはこの先の旅に備えて市場へと向かった。
ようやく旅を再開出来る、ジェラルディンはそう思っていた。
「ルディン殿。
先ほど領主様から早馬がございまして、この度のこと誠に感謝しておりますゆえ、お礼を申し上げたいと仰っていて、ぜひ領都にいらして欲しいとの事です。いかがでしょうか」
いかがでしょうか、と言われてもこれはほぼ強制だろう。
一応領都へも向かうつもりなので時期を決められなければ問題ない。
そのように返事をして代官屋敷を後にしたジェラルディンとラドヤードは、中庭のゲルの中で出立の準備を始めた。
テュバキュローシス事件も一件落着し、数件の感染はあったが7日後には完全に終結宣言が出され、ジェラルディンたちも自由に出発出来るようになった。
この間ジェラルディンは影空間と侯爵邸を行き来し、王宮にもこの度の顛末を伝えていた。
「でもかなり予定が狂ったわね。
とても領都にはたどり着けそうにないわ……確か途中にダンジョン都市があったわよね?」
「はい、ただ領都へ向かう街道からはかなり外れます。
どうなさいますか?」
もう冬は目前に近づいている。
「どこかの中小都市ではただ家に籠るだけでしょう。
ダンジョン都市なら厳冬期でもダンジョンに潜る事が出来るはず。
そのあたりを確かめてから、そろそろここから発ちましょう」
代官や警備隊の面々に見送られて、ジェラルディンたちはようやくラルケの町から旅立つことができた。
「さすがにこの時期になると、日差しが翳ると冷えるわね。
ラド、大丈夫?」
彼はジェラルディンよりずっと薄着だ。所々には素肌を晒している。
「もう今日はこのあたりで野営をした方が良いかもしれませんね。
……雨の気配がします。
明日はどうなるかわからないので水はけのよい場所を選んでゲルを出しましょう」
森の中での野営は慣れている。
なるべく水平になるようにゲルを設置し、携帯用魔導ストーブを出して暖をとる。
夕食は具沢山のクリームシチューとチーズを埋め込んだロールパン。
ジェラルディンには十分な量だがラドヤードのために燻製ハムを分厚く切り分け、スパゲティサラダを出した。
今夜は、比較的酒精の少ないエールもサービスする。
ジェラルディンたちがダンジョン都市【クメルカナイ】にたどり着いたのは、それから20日後の事だった。
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最初に確認された感染者の母子は、ジェラルディンたちが出立したあとラルケから派遣された火魔法士の手によって “ 浄化 ”されました。