102『墓泥棒』
ラルケは魔鉄や黒鉄、それに希少金属アダマンタイトを産出する鉱山に隣接する町だ。
今回、テュバキュローシスの発生した事で一番憂慮されたのはまずは風評被害と、実際に感染が飛び火することだった。
警備隊から一報を受けて、代官は素早く動いた。
まずは鉱山地区と町にいる鑑定士を集め、鉱山地区のすべての人間を徹底的に鑑定する。そして感染者がゼロだと言うことを確認するとラルケの町と鉱山地区を遮断したのだ。
これはもしラルケの町で感染が広がっても、主力産業である鉱山が隔離されていれば最悪でも産出、販売は続けて行ける。
この時点ではまだ知らされていなかったが、領主は最悪の場合ラルケを切り捨て、鉱山地区を中心に新しく町を作っても良いと思っていた。
だがラルケの町の憲兵隊の働きで、どうやら今回の感染の顛末が見えてきたようだ。
所詮は子供の行動範囲、怪しい場所はすぐに見つかった。
そこはスラムに隣接する寂れた教会と付属の孤児院である。
件の少女はここに収容されている、ある女の子と幼馴染で、ラルケを出る前に挨拶に来ていたようだ。
「では、感染の元は教会又は孤児院だったと?」
ジェラルディンは今、相談という形で呼び出された、代官の執務室でソファーに腰を下ろしていた。
「教会では老齢の神父がすでに亡くなっておりました。
これはテュバキュローシスが原因というより、衰弱して水すら摂れなかったのが原因のようです。
シスターも孤児院の方で病に倒れていて……比較的元気な子供に食べ物を渡して聞き取ったらしいのですが……」
ここで代官は口籠った。
「この度の、大元の原因が見えてきました。
なんと言うか、どうしてそんな事をと首を捻るばかりです」
代官の口から語られる事柄は大変おぞましいものだった。
これは食糧を文字通り餌にして孤児から聞き出した話である。
「その子供が言うには、ある朝孤児院でも年嵩の男子が複数の貴金属を持っているのを発見されて、シスターに問い詰められたそうです」
この時点でジェラルディンは嫌な予感がした。
「彼はずいぶん強情に口を開かなかったようですが、最後にはとうとう白状したのです。
彼は教会に付属する墓地で墓を漁ったそうです」
ジェラルディンは思わず小さな悲鳴をあげていた。
墓泥棒は最も浅ましい罪であり、厳罰に処される。
そして真相が見えてきた。
おそらくその墓の主人がテュバキュローシスを患っていたのだ。
その宿主は命を失っていたが、まだ病原菌は生きていたのだろう。それとも遺体を苗床として菌が繁殖していたのかもしれない。
「……すでに領主様から指示を頂いております。
今夜、闇に紛れて始末をつけることになっています。
気乗りは致しませんが……仕方のない事です」
「そうですね。
私は遠慮させていただきますが、レベルの高い火魔法士を確保できましたか?
かなりの高温で燃焼しないと、逆に拡散することになりますよ?」
その話に、代官は震え上がった。
彼は火魔法が使える兵士数人で事足りると思っていたのだ。
「そ、それほどですか?」
「ええ、それほどです」
紅い火ではなく、青い火によって燃やし尽くす、そうでないと安心出来ないとジェラルディンは言っていた。