追う者#01
「爺さんは魔物たち、魔族といわれる者たちが全員悪だと思うか?」
隼人の質問に対して首を横に振り、言葉を続ける。
「すべての魔族がそうだとは思ってはおらぬ。争いを好まぬ者たちがいることも知っておるし、人間たちの身勝手によりその身が危険にさらされておる魔族がおることも知っておる。それは人間たちとなにも変わらない。お互いが自己のために相手を傷つけ迫害をしておる、なんとも悲しい世界じゃ。こんな世界が終わり人間と魔族が手を取り合うような世界があれば見たいとも思う。ただ、その思いで民を危険にさらすことはできぬ」
「いや、その気持ちを知れただけで十分さ」
ミストセルラルを離れる前にクィルが言っていた、理解を持つ国王というのは間違いではないようだ。
先代国王の人としての器が、良い形で引き継がれているようだ。
「さて、これ以上ここに留まるのは無粋だな」
「ハヤト、いいの?」
「無理強いをしてまで手に入れたい結果じゃない。それにそんなことをして得た繋がりなんて、吹けばなくなるさ」
隼人は出口へ向かう途中でルクアに声をかける。
「爺さんのその夢みたいな世界、生きているうちに見せてやるよ」
ハビエルは再度混乱が起きないように一緒に部屋を後にする。
その姿を見届けルクアは呟く。
「クィル様もお人が悪い。力を貸せと申し付けてもらえれば、私どもは喜んで従いましょう。それはこの国の民も同じ」
文書に再度目を通す。
そこにはクィルとルクアしか知らない内容が書かれ、それを後に知る者もいない。
王座の間に戻ると騎士たちが騒めき立つのをハビエルが制する。
「騒ぎが外へ広がる前に早く立ち去れ」
「気づいていたのか。流石は天眼通の持ち主だけのことはあるな」
「それも知っていてここへ来たのだろう? それに我は見たいものしかこの眼では見らぬ。お前たちの国民に対しての配慮は感謝をするが、城内が騒がしいとなればそれを浮き立たせようとする者も現れる」
鼻で笑う隼人に対して、何がおかしいのか問うハビエル。
「理由はどうであれ、どうしてそれを知ったのかはわからないが、そういう対象で見られたんだな。と、思ってな」
「国に住む民の安全を願う王として見たまでだ」
「そうかい。じゃあな」
隼人は振り向かずに歩きだし、右手を挙げてひらひらと手を振る。
堂々と入ってきた道を戻り城門から出ると、入ってきた時と門番が変わっていた。
こちらを厳重警戒をしているようだ。
城から離れ街中を少し歩きながら話をする。
「これでよかったの? 私のことを説明すればスムーズに事が進むって言っていたのに」
「それはそうだと思うけど、本当にいい関係を築くならそういうことじゃないと思ってな」
「それじゃ、何か他にあるの?」
隼人がライカの質問に答えようとしたタイミングで閻狐が現れ頭の上に乗り、隼人とライカに聞こえる声で話しかける。
「隼人」
少しだけ空気が張り詰める。




