餞別
「なんだこれ? すごい綺麗だな」
「それを飲み込むんじゃ」
飲み込もうと思えばできなくないサイズではある。
言われるがままに口に含み飲み込むことを試みてみるが、拒絶により喉が押し返すのがわかる。
せめて水があれば少しは楽に飲み込むことはできるだろう。
覚悟を決めて必死に飲み込むと、ゆっくりと喉を下がっていくのを感じることができる。
「んっはぁ… 飲み込んだけど、本当になんだったんだ?」
「竜涙草の実でな、非常に希少価値の高い実じゃ。今回集めた草の中に1つだけ紛れておった」
希少価値が高いのであれば、できれば味わうことを許してほしかったと思う隼人。
「時にハヤトに質問じゃ。お主の眼はどちらも異常などはないか?」
「どういう意味だ? 別にしっかり見えるし、生活に苦労したことはないけど」
ライカもクィルの質問に対して意図が読めず首を傾げている。
「少し失礼するぞ」
クィルは隼人に近づきお互いの息が当たる位置にて顔を覗き込む。
「ふむ、左側じゃな…」
小さく呟いたのちに離れていく。
時間にすればすごく短いが、咄嗟のことで息を止めてしまい苦しさが残る。
クィルは座りなおしたのちに竜涙草の実の価値について話し始める。
「一族の中でも、その実の存在を知っている者はごく少数じゃ。ここから北の地にある、王が管理する大地に生える竜涙草の花が実らせる。管理されているとはいえ、立ち入りを禁じているわけではないから草の存在を知っている者は多い。この草自体も非常に高い薬効があるため、人間が狙って地に踏み入ることもあるが手にして帰れた者はおらん」
「どういうことだ?」
「この草の生えておる場所が特殊過ぎるのじゃ。人間の足で行こうとすれば一朝一夕で済むものでもなく、手にれることができたとしてもそれを保存して帰還する方法がないのじゃ」
入手のために命を落としたいう話ではなかったことに少し安堵する。
「さらにその実は特殊な状況下でしか熟れないとされ、その条件は儂らも知らん。ただそれだけ特殊な実だからこそ、得ることが出来るものも唯一無二とされている。そしてその得ることが出来る力というのは竜の目じゃ」
「竜の目…?」
聞き直した隼人に対して静かにうなずくクィル。




