魔王として
「私が断ったらハヤトはどうするのさ。この世界のことも何も知らないし、魔法もちゃんと使えない。外を歩いてたらウルフ族にでも食べられてしまいそうなぐらい貧弱な体してるくせに。私が好きに選んで良いって? 掟とか関係なく、自分の意思で決めていいって? 勝敗を盾に命令をすれば済む話なのに?」
「そりゃ、俺だって一緒がいいけど無理やり決めることじゃないだろ? それに俺だってウルフ族ぐらいは倒せるぐらいには強くなってるはずだぞ」
二人の会話を聞きながらクィルは目と閉じ、安心したような表情を浮かべている。
「いいよ」
「え?」
「私、ハヤトに力を貸す」
「本当か!?」
全力で喜ぶ隼人に対して言葉を続けるライカ。
「だけど一つだけ条件がある」
「な、なんだ?」
下を向いていた顔を隼人に向けてライカは言う。
「危なくなったら私を守ってね」
その表情はクィルの記憶の中で見た、無邪気な笑顔だった。
少し見とれてしまい、恥ずかしくなり視線を外す。
「ま、まかせとけ」
隼人の言葉の後に手を合わせパチンと音を出すクィル。
「さて話が固まったところで、儂からの提案じゃ。おるかどうかもわからぬ魔王に対し、ハヤトは魔王になるといっておる。人間と魔物の和平共存を目指すともいっておるが簡単な話ではない。ハヤトは戦術における部分で未熟なうえ、力もなくこのままでは魔王になるなんて絵空事じゃ。だからハヤトにはこれからしばらくこの地に留まってもらい、儂の稽古を受け強くなってもらう。ライカも同じく留まり、この地に再び竜族を集め都の復興じゃ。もちろんそれだけではなく特別なこともしてもらうつもりじゃ。争いもない人間と魔物が助け合って生きていく理想の世界。その一歩に儂も力を添えさせてもらうぞ」
「非常に助かるよ。ただ…」
「ただ、万が一のことがあった場合じゃろ? 心配せんでも各地に散っておる同胞達から、随時情報を提供してもらうつもりじゃ。もし儂たちの考えが杞憂で終わればそれそれでよい、じゃが本当だった場合に対抗する力なくして、何ができるというのじゃ。いまはただ力をつけることだけを考えることが優先じゃ」
「…そうだな」
当面の方向性が決まった。
隼人はクィルの指導のもと実力をつけ、ライカは都の復興と特別な何か。
逸る気持ちはあるものの、まずはしっかり地を踏み成長をする。
いま一番しなければいけないことだ。
「先立って儂からの最初の選別じゃ」
隼人のもとへ何かが投げ渡されるものをキャッチする。
渡されたものはビー玉のような大きさで、青く透き通った玉だった。




