四天王、竜帝ライカ#01
「四天王!?」
「はい、すでに手配した手紙は手元に届いている頃かと思います」
「は、はやいな」
正直、この状況は好ましくはない。
単純な話、魔王ではないという事実が判明する可能性が非常に高い。
四天王ということは4人。その4人が全員、ベルザと同じなわけがない。
ただもうこれは止められない。
「四天王達のご説明をしましょうか?」
ベルザが気を利かせてくる。
「頼む」
「まず四天王とは言いますが、実は…」
「5人いる、とかじゃないよね」
「…四天王ですよ?」
「そ、そうだよな。四天王だもんな」
あまり冗談は伝わらないようだ。
「実は魔王軍の直属の部下ではないんです。簡単に例えるなら王を慕う民衆代表のようなものです。私やこの城に住まう、ゴブリンやスケルトン、デュラハンたちは直属です」
「つまり、四天王に命令を出したとしても、それを聞くか聞かないかは本人たちの意思ってことか」
「その通りです。その者たちに四天王の座を与えることを当初は悩みましたが、実力は本物ですしなにより、魔王様への忠誠は確かなものでした」
さらに不安が加速する。
直属ではないということは、何かあれば謀反を起こされることも可能性としてあり得るということだ。
それこそ魔王ではないことが判明すれば死が待っているかもしれない。
「それで、その4人はどんな奴らなんだ?」
「餓狼族の狼王カイル、蛇族の蛇姫デューヌ、竜族の竜帝ライカ、魂魄族のキストリン」
なんとなく凄いイメージだけはわかったが、『こんぱく』だけイメージが湧かない。
「こんぱく、ってどんな種族なんだ?」
「魂魄、つまりはシャーマンです。霊魂を扱う種族です。餓狼族は常に飢えを抱く狼たちですね。その飢えの理由は多岐にわたります。そして、蛇族は…」
「蛇族と竜族は想像つくから大丈夫だ。つまりはその4種族それぞれの強者ってことか」
正直な話、極度の緊張状態に陥りそうだ。
「ところで、各国の内情調査にあたりいい案はないか?」
四天王の問題はもう避けようがない。
最悪なケースだったとしても、きっとベルザは肩を持ってくれるはずだ。
となれば今は優先すべき事項は少ない。
「僭越ながら、今回このような対応を取るとは思っていなかったので」
それもそうだろう。
本来であれば旗を掲げて攻撃を仕掛けていても、なんらおかしくはない。
それは魔物に対しての偏見かもしれないが。
「ですが、一番はその国へ潜り実際に探ることだとは思います」
「やっぱりそうなるか」
ただ、魔物を受け入れる国なんてないだろう。
「魔王様ーーー!!」
大声で叫びながら駆け寄ってくる魔物が一匹。
「何事ですか?」
「はぁ! はぁ! 大変です!」
よく見れば最初に出会った緑色のゴブリンだ。
「西の方から、ものすごいスピードで城に向かって何かが来ています!」
「何かって…なに?」
ベルザに目を配り、答えを求める。
「一体なんでしょうね?」
イケメンスマイルで返される。
「ど、どうしましょう!」
「おーい!」
狼狽えるゴブリンの後ろからゆっくりと声が近付いてくる。
「どうやらもう着いたみたいですよ。その何か、が」
「そんな…! こんなに早く…」
相変わらず狼狽えるゴブリンに対し、ベルザからは余裕が見て取れる。
「おい、貴様! 止まれ!」
「なんだ?私の邪魔をするのか?」
「不審者め! 誇り高きスケルトン騎士であるこの俺の目が赤いうちは、この城で好きにはさせないぞ!」
「スケ男さーん、頑張ってー!」
姿を確認できないところで何かが起こっているようだ。
「スケルトン如きが私の相手になると思っているか?」
「その言葉、後悔することになるぞ! うぉぉぉぉぉ!」
その後、大きな爆発音とともに城が揺れる。
「いやーーー! スケ男さーーーん!」
「この城には私のことを覚えている奴らはいないのか?」
声が近付いてくるにつれ、正体を少しずつ確認できるようになる。
少しすると頭までローブを被っている人物が姿を現す。
背丈は低く人間の子供ぐらいの大きさだ。
「おっと、ここか」
ローブを脱ぎながら顔を見せる。
短髪緑髪で頭から角が生えている。
顔は幼く見え、瞳は透き通った黄色で美しい。
「お久しぶりです魔王様。竜帝ライカ、ご挨拶に参りました」
「竜帝ライカって…」
「えぇ、お話をした四天王の一人ですね」
それはあまりにも早い出会いだった。