竜帝と呼ばれる少女
イサンダ国内、某所。
新緑が繁茂する土地に喧騒が響く。
「情報によれば、この土地にズメイの子供が生息しているらしい! このズメイを討伐することが出来れば、イサンダ国は他国に大きな差をつけることが出来る! ただし、子供とはいえ相手はドラゴンであることを忘れるな!」
イサンダ王国の国章が目立つ鎧を身に纏った兵が、幾数とその場に列をなし集まっている。
数にしてざっと5千以上の軍勢を、軍隊長と思われる人物が指揮をとっている。
「全員生きて帰るぞ!」
「「「おぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
大気が揺れるほどの雄たけびが辺りに響く。
「ヴェイン隊長、本当にこれほどまでの軍勢を率いる必要があるのでしょうか?」
「先ほども言ったが相手はドラゴンだ。それが例え子供であってもな。むしろ子供相手だからこそ、これだけの軍勢で対応することができる。もし成熟したドラゴンを相手取るなら、一国を動かすほどの勢力がなければ太刀打ちできない。それこそ歴戦の勇者様がいらっしゃれば、話は別だがな」
「そうなのですね…。失礼しました」
「お前はまだ若く、副隊長としての歴も浅い。まだまだ経験を積まなければならないことばかりだ。ただ絶対に相手を見縊ることだけはするな」
「はい!」
「隊長!前方に人影が見えます!」
偵察隊の一人が声を上げる。
「人影?」
「はい。頭までローブを纏っており、性別は不明ですが」
「ふむ」
人影まで近づき軍は足を止める。背丈は低く子供のようだ。
隊長である男が声を掛ける。
「お前、どうした?」
「……。」
「一人か? 親はどうした?」
「…おじさんは何をしているの?」
顔は見えないが声から女の子であることがわかる。
「おじさんはお仕事でここに来ている。もし一人なのであれば保護させてもらおう。ここは子供が一人でいるには危険すぎる」
「ねぇ、どんなお仕事なの?」
「ん? …すまないが、それは例え子供であっても教えることはできん。」
「隊長。相手は子供ですし、いいのではないですか?それに危険性を伝えない事には、例え子供でも納得しないでしょう」
そういうと副隊長は子供の目線に腰を落とし話しかける。
「おじさんたちはここにいる、怖いドラゴンを倒しに来たんだよ。放っておくと、とても危ないからね」
「クロム! やめろ!」
「どうしたんですか、隊長。相手は子供ですよ何をそんなに…」
「…もういい。とりあえずこの子供を」
「ねぇ、ドラゴンってズメイドラゴンのことかな?」
「!?」
「それなら私の敵だね。私の大切な同胞は殺させない」
大気が揺れ被っていたローブが外れ、顔をのぞかせる。
緑色の短髪に角が2本生えており、その瞳は見たものを威圧する。
「その角と眼…っ! 貴様、竜族か!」
「この少女が竜族…!?」
「じゃあね、おじさん達」
少女が手をかざすと同時に軍隊を衝撃波が襲う。
一瞬にして5千もの兵を壊滅させる。ただ一人を除いて。
「へぇ~、おじさん強いね」
「くっ…、大丈夫か、クロム」
「うっ…、隊長」
「でも、足りない」
突風が刃となり軍隊長を襲う。
「ぐあぁっ!」
「これに懲りたら、ドラゴンを殺すだなんて思わないことだね」
少女は背中から翼を広げ空へ飛び立った。
後に残ったのは壊滅した兵の山。
「隊長…」
剣を杖にし立ち上がり、軍隊長の体を起こす。
「ぐ… 大丈夫だ…」
「あの少女は一体、何者だったのでしょう…?」
「…その昔、魔王との戦いの際にドラゴンを統べる少女がいた。その少女は魔王に仕え強大な力を奮った」
「まさか、あの少女がそうだというのですか?」
「わからぬ。ただ、あれほどの力を持つ者は多く存在せん。竜帝ライカ、それがその少女の名前だ」
「竜帝ライカ…」
「とりあえず、撤退だ。動けるものは互いに手を取り、王国へ帰還する」
「かしこまりました」
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「本当に人間どもは好き勝手にしてくれる」
先ほど軍隊を壊滅させた少女は、愚痴を漏らしながら空を飛ぶ。
そこに近づいてくる魔物が一匹。
「ん? あれはスカルバード」
スカルバードと呼ばれる鳥のような魔物。
その身体には肉体はなく、骨のみである。
心臓部分にある紅い核がこの魔物に魔力を供給している。
「なに? 私に手紙?」
足に巻き付いている紙を外すと、スカルバードは飛び去った。
「うわぁ…、ベルザじゃん。あいつが私に手紙とか何事よ」
空中で立ち止まり手紙に目を通す。
「へぇ~、そういうことか。なら、行くしかないか」
少女は行路を変え、魔王城を目指し始めた。