勇者?魔王?誕生する#04
「そこで魔王様は眠りに就いてしまいました。……魔王様、大丈夫ですか?」
「あ、あぁ…。大丈夫だ、ベルザ」
「少し休まれた方がいいかもしれませんね。これまで過去の記憶まで忘れてしまうほどの、眠りに就かれたことはなかったですから」
玉座に座りながら右隣に立つ、ベルザから説明を受ける。
どうしてこうなったか、魔王城内に転生をしてしまった。
分かっていることは、あの女神が転生先を間違えたことだけだ。
『どこかのお城にでも転生させるわよ』
確かにそう言っていたが、まさか魔王城だとは思ってもいなかった。
幸い魔王と勘違いしている事を利用して、記憶が無いということで誤魔化せている。
そのおかげもあり、この世界の簡単な話を聞くことはできた。
「それにしても魔王様。不思議な服装をされていますね。眠りに就かれる前の衣装はどちらへ?」
「……」
転生をして魔王城へ来てしまったが、服装だけは何一つ変わっていない。
「失礼しました。記憶がないのでしたね。魔王様のお部屋に、新しい物をご準備させてもらいます。どうぞ今日は休まれてください」
「その前にもっと詳しく、今の人間と魔物の関係を教えてくれないか?」
「かしこまりました」
この世界のことを聞く上で、前魔王が眠りに就く前のことは聞いた。
昔は人間と魔物で争いをしていたという、よくある話だった。
最終的には勇者と称された冒険者と戦い、魔王は敗れ眠りに就いた。
それから世界は人間の天下となり時が過ぎていった。
「魔王様、こちらを」
「これは?」
「この世界の地図です」
一枚の紙を渡され目を通す。
「先ほどもお伝えしましたが、この世界は4大国に分かれそれぞれの王が治めています。この海に囲まれたこの場所が魔王城です」
「なるほど」
大体の位置関係が分かってきた。
「私たちは先の戦いで負けてしまい、魔物達も大陸のいずれかの場所で暮らしております。大きく力を削がれてしまった各地にいる魔物達は、人間に逆らう程の力はありません。ただ争い自体もなかったので、その力がなくとも問題はありませんでした」
「ただ、今はそうじゃなくなった」
「その通りです。人間達が魔物に対して力を振るい始めたのです」
「その理由は?」
「私たち魔物から得ることが出来る、素材や技術です。例えばなのですが、ドラゴン族やオーガ族など魔物の中でも屈指の力を持つ種族がいます。彼らの、特にドラゴン族はその肉体自体が大きな価値があります。鱗は万物から身を守る鎧に。爪は大地を切り裂く刃物へ。オーガ族の牙は刃に打ち込めば、絶対に折れることがない刃へと変わります」
「…。(ドラゴンは空想で聞く通りのイメージだな。オーガって確か鬼だったよな)」
「ただ、彼らは何か特別なことがない限り、人間如きに負けるような事は無いので問題はありません。問題なのは末端の魔物達なのです」
ベルザは説明を続ける。
「末端。つまりはスライムやゴブリン、ドワーフなど、魔族の中でも力を持たぬ魔物達です」
「そいつらがどうしたんだ」
「力を持たぬ故、対峙した際はまず戦いで負けてしまいます。それ自体は特に問題は無いのです。今までもそうですが、倒されてしまう事はどうしても起こる事ですので。ただ、今は明らかに狙われて討伐をされているのです」
「詳しく教えてくれ」
力がない魔物。
つまり低級モンスターという事であれば、ゲームでも序盤で乱獲される対象である。
「はい。まず、スライムの生態について簡単に説明をします。スライムは雑食で、体内に取り込んだものを消化していきます。ただ雑食ではありますが、薬草を好んで体内に取り込む傾向があります。その取り込まれた薬草は、稀に体内にて性質変化を起こすのです」
「性質変化?」
「薬草がスライムの体液と混ざる事で、どんな傷も癒す特効薬へと変化するのです」
つまり人間がその特効薬欲しさに、スライムを乱獲しているということだろう。
「またゴブリンの骨。主に手骨になりますが、十分に乾燥させた後に煎じる事で、万病を治す薬へと変わります。ドワーフはその技術力の高さから、武具などを中心に狙われております。そしてそれら全てが、人間界では高額で取引もされております」
「金目当てってことか」
「それであれば、警笛を鳴らすだけで済むのですが…」
「他に理由があるのか?」
「人間同士の領地争いのために、その糧として狩られているのです」
大体ではあるが話が読めてきた。
「4大国がそれぞれ争いをしているのか?」
「今のところは違いますが、それも時間の問題かと思います。そうなれば更に魔物達の被害は増えます。最悪、その種の絶滅もあり得ます」
「それはマズイな…」
人間同士の争いを止めることが出来なければ、今の状況は変わらないということだ。
しかし、これは簡単な話でもない。
「いかがしましょう? 魔王様の復活を機に、人間達に再び宣戦布告をしましょうか?」
「それも一つの手だろうな」
ようやく女神の言っていたことが繋がった。
『冒険者として冒険に出て魔王復活を阻止する』
普通であれば人間達との抗争は避けられない。
そうなれば魔物側も武力を持って抵抗することになる。
そうなることがないように、冒険者として転生をし魔王を止めろということだ。
ただ、勇者としてではなく魔王として転生してしまった。
「ではどのように?」
「とりあえず抗争の話はなしだ。それよりも最優先に、力無い魔物達に助力をして欲しい。そして、人間同士の抗争の情報を集めてほしい」
「かしこまりました。それでは明日にでも手配を行います」
とりあえず争いに話が流れる事だけは避けなければならない。
互いに被害が出るし、双方にメリットが存在しない。
「ふぅ…。(それでもって、俺が魔王ではない事がバレないようにどうやって誤魔化し続けていくか。不思議な事にベルザは長い間、魔王に仕えていた割には、魔王の顔を認知していない事が気掛かりではあるが…)」
「魔王様、お休みください」
「あぁ…」
椅子から腰を上げ立ち上がる。
「部屋は…どっち?」
「失礼しました。直ちに案内の者を呼びます」
こうして長い一日が終わりを迎えた。