ミストセルラル
「ライカ、大丈夫なのか」
「『竜族は簡単に死ぬことはありません。それこそ腕がなくなっても腹に穴が開いても大丈夫です』」
「それは想像したくないが…」
「『ライカ様は著しく力を使ったため、眠りにつかれているだけだと思います』」
「そういえば、何もなく背中に乗せてもらったけどいいのか?」
「『ライカ様が認めるお方です。それなら喜んで従いましょう』」
竜族の中ではやはりライカは特別な存在であることは間違いないようだ。
「『それにしても不思議なお方ですね』」
「ん?」
「『魔王様と伺いましたが、失礼ながら先代の魔王様のような禍々しい魔力を感じられません。どちらかと言えば勇者寄りの魔力を感じる事が出来ます』」
「…そんなことが、わかるのか?」
「『私たちのような竜族や、魔力に敏感な種族であれば容易です。その魔力で相手の実力も見極めることが出来ます』」
「そ、そうなのか」
隼人は思考を巡らせる。
サラマンダの言うことが正しければ、ライカはそのことに気付いているはずだ。
もしかしたらベルザも同様に気づいているかもしれない。
ただそれでも魔王として迎えられていることに疑問が浮かぶ。
「『私たち竜族は中立の立場なので、人間であっても魔族であっても認めた相手には従います。だから竜族同士の殺し合いもあります。ライカ様の思いは十分にわかるのですが、現実難しい事なんです』」
竜族も複雑なんだな。とサラマンダの話を聞きながら思う隼人。
「『まもなく到着します。私たちが都と呼ぶミストセルラルです。もっとも今では面影はないでしょうが』」
遠目に見えるその都は、近寄らずともその惨劇さを感じ取ることが出来た。
未だなお消えぬ炎に上がる白煙。
とても都とは呼ぶに敵わぬ景色をしている。
隼人はライカを抱えたままその地に足を踏みいれた。




