勇者?魔王?誕生する#03
「三島 隼人。女の子を助けた事により、自動車との衝突によって死亡…っと。ふ〜ん、なるほどね〜」
椅子に座ったまま、一枚の紙を見ながら納得をする女性が目の前に1人。
そしてなぜか対するように椅子に腰をかけて、その姿を見ている。
「あの〜」
「なぁ〜に〜?」
「俺、死んだんですかね…?」
「うん、死んでるわよ」
一切こちらを見ずに、興味を持たない生返事で答えが返ってくる。
「今時、こんな珍しい死に方をするなんて貴方変わってるわね」
目を通していた紙を下げ始めて目が合う。
青い透き通った瞳をこちらに真っすぐに向けてくる。
「死んだって事は、ここって死後の世界って言われる場所なんですか?」
死んだと聞かされても、いまいち実感もわかずこの状況に順応しようとしている。
この空間には他には何もなく、ただ暗闇が広がっている。
ただそれでも不思議なことにお互いの姿だけはしっかりと確認が出来る。
「半分正解で半分間違い。ここは現世で死んでしまった人間に、新しい生き方を選ばせる場所」
「新しい生き方?」
「例えば、このまま成仏して新しい命として生まれ変わるのか、それとも別の世界へ転生を行うか。その選択をする場所ってことね」
つまりは冥世の分かれ道で、天国と地獄のどちらかに行くのかを判断する場所のようなものらしい。
「別の世界?」
「え〜っと…。なるほどね。貴方はゲームとかをするみたいだから、分かりやすく言うとそういう世界への転生ってこと」
幻想ファンタジーな世界へ行ける。
それだけ聞けば世の男なら心が踊ること間違いないだろう。
「で、どうするの? 死ぬ? それとも違う世界で生きて行く?」
「異世界ってのはすごい興味があるけど…」
「なら決まりね。今から貴方が行く世界は現在はとても平和な世界なの。ただ、魔王復活の兆しがあるみたい。それを冒険者として冒険に出て魔王復活を阻止することが…」
「ちょっと待って!」
淡々と異世界への選択で話が進んだ事に、死んだ以上に動揺と驚きを隠せない。
そして話を遮った事により女性があからさまに嫌そうな顔をしている。
「勝手に話を進めないでくれ! だいたいあんた何者なんだよ。冥世の判断をしてるって事は閻魔なのか?」
「なっ!? 閻魔とは失礼ね! 私は女神よ! 見てわかるでしょ!」
到底、女神とは思えない態度である。
口も悪ければ態度も悪いし、胸もない。
まだ閻魔だと言われた方が納得しやすい。
「それにどうせなら異世界で冒険とかしたいでしょ? 男なんだし、そんな憧れとかあるでしょ? だからもう異世界に行ってよ」
「凄い言い分だな…。いや、転生するのは別に構わないけど、冒険者って事は戦うこともあるって事だよな? それなのにこの格好なのはどうにかならないのか?」
今更だが海パンに上着を羽織った、現世での最後の姿のままこの場所に座っている。
「別に良いんじゃないの? 無課金アバターに少し毛が生えたみたいで」
「今のゲームは無課金でも、もっといい服装にできるぞ。というか、流石に知らない場所で丸腰のままってのはあんまりだろう? 仮にも、これから世界を救いに行く予定の人間に対する対応じゃないだろう。そもそも向こうの世界の言葉とかはどうするんだ?」
「あ〜もう、うるさいわね。分かったわよ。なんか適当に装備はあげるわよ。それと言葉は心配しなくていいわよ」
そう言いながら指を鳴らす女神。
「何だこれ! 頭が締め付けられるっ!」
「今、直接頭の中に言語を流し込んでるから、そのうち締め付けられる感覚もなくなるわよ」
女神とは到底思えない所業の数々。
よくイメージをするお淑やかで慈悲深く、愛のある綺麗な女性なんてのは嘘だ。
「いや! 綺麗な女性である事だけは唯一間違ってないっ!」
「何叫んでるのよ」
しばらくすると締め付けられる感覚は抜けた。
「さて、あとは装備品とか言ってたわね」
「もう言語は大丈夫なのか…?」
「えぇ、問題ないわよ」
そう言われても本当に大丈夫なのかはただ不安である。
「ここに3枚のカードがあるわ」
赤、青、黄の三色のトランプほどの大きさのカードを3枚取り出す。
「赤色は悪しき力を打ち滅ぼす武器。青色は身を滅ぼす攻撃から守る防具。黄色は神の祝福を受けた装飾品。この中から一枚だけ選びなさい。それを貴方に授けるわ。」
「おぉぉ…」
一気にファンタジー感が強くなった。
「……。(やっぱり武器がないと敵と戦う時とかに困るよな…。でも、敵からの攻撃をこの服装じゃ防げないだろうし)」
「どうしたの? 早く選びなさいよ」
「ちょっと質問。もし武器を選んだ場合の話だけど、扱えない武器の場合もあるのか?」
「それは安心していいわよ。どんな武器の形であれ、貴方しか扱えない専用だから。もちろん、防具に関しても身に着けることが出来ないものはないわよ」
自分専用とかカッコイイ。
でもこれで手に入れた物が扱えない可能性はなくなった。
「それじゃ赤色のカードで」
「はい、どうぞ。ちなみにどんな武器が手に入るかはランダムで私にも分からないから」
「こんなところにガチャ要素はいらないけど…」
女神が赤色のカードをこちらに向け飛ばす。
カードは宙に浮いた状態で目の前で止まる。
「赤に宿りし武の力よ。女神シアの名の下に其の真価を示せ。フォースクリエイト!」
カードが光り出し、目を開ける事が出来ないほどの光りに包まれる
次に視界に入ったのは小さな武器のようなものだった
「なんだこれ…」
「それが武器見たいね。大切にしなさいよ」
「え? いや、ちょっと待って。なにこの中学生が修学旅行とかで買うものランキング1位みたいなやつ」
短剣。そう呼ぶには小さく、丁寧に首から下げる事が出来るようにチェーンも付いている。
よくお土産屋で見かけるやつそのものだ。
「言ったでしょ。ランダムだから私もわかんないって。ただそれでも、女神の加護を受けた武器だから何かしら特殊な武器なはずよ」
「女神って、あんた?」
「私しかいないでしょ」
「ふっ」
鼻で笑ってしまう。
「なに笑ってんのよ。その武器返してもらっても構わないのよ」
「正直、このサイズだと無いのと同じだよな」
そう言いながらも首から下げる。
「まったく…。ほら、準備も整ったし転生するわよ」
これ以上はなにも望めないと諦めてその時を受け入れる。
「出来れば最初は安全な場所にしてくれよ」
「注文が多いわね。どこかのお城にでも転生させるわよ。…ここで良いかしらね。それじゃ頑張ってきなさいね」
体が光りに包まれ始める。
おそらく転生が始まったのだろう。
「なぁ」
「なに、まだ何かあるの?」
口が悪いとか女神らしく無いとか、言いたいことは沢山あったけど、どうしても言いたい事があった。
「……。」
「なによ。何かあるなら言いなさい。もう直ぐ転生が終わるわよ」
「あのさ。こういうのも変かもしれないけど、ありがとうな」
「なっ…!」
女神が口元を手首で隠す仕草をとる。
わかりやすい反応だ。
「正直にいうと口も悪いし、態度も悪いし。絶対女神だと思わなかったけど、なんだかんだ優しくしてくれたみたいだしさ。一応、お礼をな」
「べ、別にっ! 女神だし! それぐらいは当然だし…! えっと…」
「(ほぅ、ツンデレ属性持ちか)」
「と、とにかく頑張ってきなさいよ」
「はいはい、女神様の仰せのままに」
体を包む光が大きくなり目が開けれなくなる。
次に目を開けた時が新しい人生が始まる。
冒険者としての新しい旅立ち。
そう思うと不思議と心が躍る。
期待を胸に目を開くのだった。