燻る火種#01
「クレリセッチ様、考えを改めたほうが良いのではないでしょうか?」
兵団長がクレリセッチに対して質問を投げかける。
「国王様が動けぬ今、ここでの権限は私に委ねられておる」
「ですが、ルクア様は争いを拒むのではないのですか? 一度ご意見を頂かれた方が…」
「国王様はまだ体調が優れておらぬ。兵団長は国王様が狙われたというのに、その指を咥えて見ておけというのだな?」
「そんなつもりはありません。ただ流さなくてよい血もあるのではないかと…」
「話は分かった。ところで兵団長は最近、休暇は取っておるか?」
「休暇ですか?」
「イサンダの辺境に、海を見ながら過ごすことが出来る場所があるそうだ。明日からそこで休暇を取るとよい。無駄な血を流さずに済む」
「クレリセッチ様!」
以前の落ち着き払った冷静なクレリセッチの姿はなかった。
明らかに怒りで正常な判断をすることが出来ておらず、人が変わってしまったようだ。
「これにて会議を終了とする。自身の仕事へ戻るように」
クレリセッチが会議の場から姿を消してしばらくすると、小さな囁きが次第に大きくなる。
「本当に争いを始めるというのか?」
「この地を離れることも考えたほうがいいかもしれません」
各々が抱く不安と不満が徐々に肥大化していく。
「兵団長、大丈夫か?」
この地を出ていくように命が下された兵団長に対し、最も関りが深い参謀総長が声をかける。
「この地を出ていけと言われたことは、そんなに問題じゃない。争いが起こってしまう今の状況が問題だ」
「国王様が病に伏しているとはいえ、クレリセッチ様の考えは極端だ。普段のあの方ならこんな決断をすることはないだろう」
「このままだと本当に獣人族とぶつかり合ってしまう。彼らが本気を出せば、人間なんて相手にならない」
「やはり何か引っかかる」
「……調べることはできるか?」
「そのつもりだ。お前はどうする?」
「命に従い一度王宮を離れて、人を探してくる」
「誰を探すんだ?」
「魔王だ」




