夜香花#01
「ん~… あ! ありました。あそこのあれ、見えますか?」
「遠称ばかりで何かわからないぞ。どこだよ」
「あれですよ! あれ!」
「……閻狐、わかるか?」
「もしかして遠くに見える、トゲトゲした植物の花?」
「そう! それです! あの花があれば誘い出すことが出来ますよ」
「……どこだよ」
未だに見つけきれない隼人に痺れを切らして、ミーナは先導して目的地へ向かう。
そのあとをついていくと次第に目標物を捉えることが出来た。
確かにピンク色の花が生えているが、これをあの位置から見つけるのは正直無理だ。
陽炎で景色が歪む中、距離にして100メートルほどの掌ほどの大きさの花を見つけろというほうが無理がある。
「この花でどうやって誘い出すんだ?」
「サンドタートルはこの花の匂いが好きなんです。だからこの花の香りを拡散させてあげれば、近くにいる一匹ぐらいは姿を現すと思います」
「問題はどうやって匂いを拡散させるかだな」
花の匂いを強くする方法として、隼人がすぐに思い浮かべたのは香水だった。
香水であれば少量で多くの匂いを拡散させることが出来る。
ただ目の前の一輪の花からは強い匂いを感じることも出来なければ、香水自体も簡単に作れるようなものでもない。
「いちおうこの場所で待っていれば、この花が枯れる頃までには姿を見ることはできると思いますが、それじゃ遅いんですよね?」
「今日や明日で枯れるわけでもないならな」
「そうなると難しいですね。一応夜にもう一度来てみますか? サンドタートルが姿を現すのも夜のほうが可能性は高いですし」
「どうしてだ?」
「この花は夜になると匂いが強くなる性質があるんですよ」
「夜に匂いが強くなる… 中型の魔獣はそれ以外いないのか?」
「ううん、そんなことはないですよ」
「試してみるか」




