憧れを抱いて#03
「裏切られた?」
「依頼の最中に賊の襲撃を受けたのです。特別強いわけではなかったのですが、一緒にいたその人に背後から斬られました。何が起こったかわかりませんでした。背中に感じる痛みと熱さで息ができず、力が入らないことだけで頭がいっぱいでした。そんな中、聞こえてきた会話は私を身売りするという話でした。商品を傷モノにするな、価値が下がる。その傷を喜ぶ人間もいる。年も若い獣人で容姿は幼く、需要が有る。そんな会話でした。初めからそのつもりで私に接触をしていたのです。」
「ひどいな…」
「どうにかしてこの場を切り抜けないといけない。幸い致命傷にならないように手加減されたこともあって、すこし我慢すれば動けるのは分かりました。ただ、手負いのまま逃げることはできないのも理解できたので、私はひとつの答えを出しました」
「………」
「…生きるためでした。濃ゆい鉄の匂いが、自分のものなのかそれとも、手にかけたものなのかもわからない。ただ必死にこの場所に戻ることだけを考えて、その場を逃げ出しました。でも、ここに戻ってきても、私に手を差し伸べてくれる人は誰もいませんでした。バチがあたったんでしょうね。獣人族を自分たちの欲求のはけ口にする人間たちに、私は興味を持ちあまつさえ、一緒に冒険までしていたのですから。ただ帰る場所もない私に唯一、手を差し伸べてくれたのがグラ爺でした」
「グラ爺って、グライジェのことか」
「グラ爺は私が瀕死なところを手当してくれて、居場所まで与えてくれました。感謝しても感謝しきれません」
「聞いていいか分からないが、両親はいないのか?」
「両親は私と縁を切ってます。一族の裏切り者ですから、縁を断つのも当たり前でしょうね」
乾いた笑いと笑みを浮かべるミーナの表情は、後悔が混じっていた。
「今回、俺が現れたとき嫌な思いをさせたんじゃないのか? 昔を思い出させたよな?」
首を横に振る。
「いいえ、寧ろ昔を思い出してちょっとワクワクしちゃいました。あんなことがあったのに馬鹿ですよね。ハヤトは同じじゃないですよね…?」
その言葉にはいろんな意味が含まれているのだろう。
これは建前でもなく、偽りでもない答えを隼人は返す。




