語られた過去#02
「なぜそこまで獣人へ肩入れする?」
「特に立派な理由はないけど、その事実を知ってしまったから。少しでもそれを変えたいと思った」
「お主の小さな力ひとつでは、何も変わらないと思うぞ?」
「そんなのはやってみないとわからないだろ」
隼人が向ける迷いない視線に、グライジェは呆れ混じりに鼻で笑うと話を始める。
「お主はどこまで獣人について知った?」
「次期当主と言われていたカイルという獣人が、突然として一族を離れて魔王の元へ行き、”獣人族を人間の管理下に置く”という決まりができたということだな」
聞いた話の要所のみを切り取り簡潔に話しをまとめる。
それを聞いて納得したようにグライジェは話を進める。
「その話に大きな間違いはない。ただ一つあるとすれば人間の管理下に置くという部分じゃな。当初は庇護するはずじゃった」
「管理と庇護じゃかなり意味に違いがあるぞ」
「捻じ曲がってしまったのだ。権力をもつ人間が趣味嗜好を振る舞い、結果獣人は愛玩と成り下がり、奴隷に至った」
「国王がそれを始めたってことか?」
「国王でなく、富に栄えた権力をもつ人間たちが始めたことだ」
つまりそれを国王は止めれなかったどころか、黙認したということになる。
そうなればより国王のバッシングを強く抱くことになる。
「そもそも獣人のほうが、人間より力をもっているはずなのに、なぜ庇護下になることを選んだんだ?」
「カイルが獣人族を守る上で考え抜いた答えじゃな。カイルは好んで魔王軍幹部になったわけでない。その力を認められ強要されたのじゃよ。魔王軍の幹部となるか、種族として滅ぶかのどちらかを。もちろん儂たち獣人がその気になれば、人間をねじ伏せることぐらいは容易い。爪、牙、腕力、脚力、嗅覚、聴覚、視覚。身体能力で劣ることは一切ない。それでも反発する仲間を宥めて、人間の下についたのだ」
「いまいち理解ができないが、そうすることによるメリットがあったわけだよな?」
「辿れば単純な話じゃよ。獣人のひとりが幹部になったことにより、同族が人間から受ける危害のリスクを減らし、双方が傷つかない選択した。人間たちも身体能力で劣るとしても、それを補う技術力がある。それがぶつかればお互い痛み分けではすまない。獣人は人間の庇護下になることで危害を受けるリスクを減らし、人間は獣人を匿うことで危険が迫れば一緒に戦い抜いてくれる味方となる。これ以上に身を守る方法がなかったのじゃ」




