語られた過去#01
「これは?」
「茶じゃよ。飲んだことぐらいあるじゃろう?」
自分の世界では確かに慣れ親しんだ物だが、ただ今目の前にあるものはそれとは似つかない。
緑色の物が代表的で、茶色や薄い黄色の物など様々なものがあったが、赤色は初めてだ。
ただ匂いは確かに知っているものと酷似している。
ずずっと啜り飲んだ後に、老獣人は話を切り出す。
「そういえば名がまだじゃったな。儂の名前はグライジェ。ただの老人じゃ」
「俺の名前は隼人だ。っていってもすでに知っていそうだな。なぁグライジェさん、どうして俺がミーナを探していると分かった? どうしてもその疑問が解けない」
「私を探してた…?」
「簡単な話じゃ。確かに儂はお主の名前を知っていた。それはその名前を口にした人物がおったからじゃ。その人物が狼狽えておった。よほど気を許しておったのじゃろうな。裏切るようなことをしてしまったと、悔いておった」
「………」
「実際どうじゃ? お主はその名前を口にした人物に裏切られたと感じておるか?」
「そうだな」
隼人のその言葉に、少しだけ体をピクリと反応させるミーナ。
その視線は垂れていた。
「別に付き合いが長いわけでもなく、たまたま偶然に出会って、飯を食っただけだ。そんな相手に信頼を示せって言うほど、俺も貪欲じゃねぇし強欲でもない。ただ、裏切ってしまったと感じさせてしまったことに、申し訳ないと感じている」
「つまり、裏切られたとは思っていないと?」
「そう感じる理由すらない」
「なら、我ら一族をどう思う?」
「どうも思わない。対等だ。俺にとってはそれが普通だし、他が何を言ってもそれは変わらない。それよりも聞かせてほしい。なぜ獣人はここまで地位を落とすことになったのかを」
隼人は男から話を聞いてはいるが、改めて話を催促する。
人間からの言葉ではなく、その種族としての声を聞くために。




