老いた獣人#02
「一緒に町へ行っておったようじゃが、はぐれてしまったのか。いや、別れざるを得なかったのじゃな。そしてそれを追いここへ足を踏み入れた。じゃが敵意に満ちた行為が…」
「やめろ!」
周囲の視線が隼人に向けられ、一瞬の沈黙があたりを包み込む。
「…老人に対して、あまり大声を出すもんじゃないぞ? 気になるなら付いてくるがいい、人間の童よ」
振り返って店の路地へ入っていく。
考えは一切まとまっていないが、付いていくことでその答えもまとめることができるかも知れない。
そんな思いで少し遅れながらついてく。
老獣人は相変わらず歩きながら喋るが、先ほどと違うのは隼人と会話をしていることだ。
「人間が獣人の娘にご執心とは、かっかっか! これは傑作じゃな」
快闊に笑いながら路地裏をどんどん進んでいく。
この場に2人以外の気配を一切感じることができない。
「爺さん、あんたは何者だ?」
「何者? その答えは、老いた獣人では満足ができぬということか? 困った。儂はそれ以上の答えを持ち合わせていないな。さて、どうすれば満足する答えを返すことができるじゃろうか? お節介な老獣人じゃろうか、それともお喋りな老獣人じゃろうか?」
「……もういい」
「かっかっかっ!」
会話と言ってもほとんどは一方通行で、隼人の求めている答えがすぐに返ってくる様子はない。
はぐらかすかのように、すべてをさらけ出すことなく老獣人は話をする。
「お前さんはワンピースの少女にあってどうするつもりじゃ?」
「どうするも、預かっている物を返したいだけだ」
「それだけか?」
「それだけだよ」
どれぐらい進んだだろうか?
話をしながら歩いていたので、時間の感覚は正しくはないが、それでももう10分以上は歩いている。
ただ仄暗い路地裏を2人は歩いていく。




