老いた獣人#01
「別に教えてくれなくてもいい。お前たちがどんな目で見てきても構わない。俺は勝手に探させてもらうぞ」
隼人はそういうと入ってきた路地を戻り、表通りへ出る。
通りを戻っても隼人を見る視線は変わらない。
話しかけたところで相手にもしてくれないだろう。
「こんな現状はなくなるのが一番だな…」
そんなことを呟きながら、さっき話をした冒険者のことを思い浮かべる。
ただ人間の中でそういう思想を持った集団が生まれていることは、この問題を解決へ向かわせるきっかけになるだろう。
「あとは何かひと押しがあればって感じか…」
いろんな考えを巡らせながら、ただ獣人街を歩いていると、荷箱に座った年老いた獣人に声をかけられる。
「こんなところに人間の童がなんのようじゃて」
「………」
その問に答えることなく横を通り過ぎようとするが、老獣人は隼人の後ろをついてくる。
「いつぶりじゃろうなぁ。思い出すこともできぬな。かっかっかっ!」
「………」
「それにしてもこんな場所に何のようじゃろうな? 奴隷商… ではなさそうじゃな。そんな雰囲気は感じられん。となると探し人じゃろうか?」
老獣人の言葉に反応をしたつもりはないが、心の内を探られたことに少しばかり気が散った。
「正解のようじゃな? はて? 人間の童が探している人物……」
隼人が発した微かな変化を察した老獣人。
一切相手の表情を見ることもなく、背中からそれを感じ取る力は普通じゃない。
「そこの店の店主。すれ違った女。はるか後方にいる若い男。元気に遊んでおる子供達」
無視を続けていたが、さすがにずっと後ろで言葉を並べる老獣人にしびれをきらす。
「おい、いいかげんに…」
「白いワンピースの女の子」
隼人は振り返って止めるように言い放とうとする瞬間に、老獣人から発せられた言葉に止められる。
どうしてそれを知っているのか、その答えを探すために考えが巡る。
ただその考えがまとまることなく、老獣人は言葉を重ねる。




