奴隷の過去#02
隼人は以前出会った2人の悲痛に似た、この国を糾弾する獣人の言葉を思い出す。
『僕たちを助けてくださいっ! この国は腐っていますっ!』
「あれはそういう意味だったのか……?」
「金稼ぎのために秘密裏に獣人の子供が誘拐されることだってある。例え昔にそのような盟約が交わされていたとしても、これが当たり前だと思っていることが異常なんだ」
「あんたの気持ちはわかった。ただその思いを持ったとして、なにも現実は変わらないだろう?」
「わかっているさ。個人の力が無力なことなんて。だからこそ俺と同じような意見を持つ人たちが集まる団体がある。奴隷制度をなくすために活動をしている団体だ」
「そんな団体があるのか」
「そうだあんたも参加しないか? あんただって獣人の奴隷はおかしいと思うだろ」
隼人は男の言葉を遮りながら意見を述べる。
「生憎だが俺はそれに参加するつもりもなければ興味もない。確かに獣人の奴隷制度には納得できない部分はあるが、今はそれを解決できるような状況じゃない」
前国王は寝込み、現国王は行方知らず。
今は一国の危機的状況であり、獣人の奴隷解放を天秤にかけずとも答えは明確だ。
それに今はミーナの元へ向かう必要がある。
「いい話が聞けた。お前たちの考えを否定するわけじゃないのだけは理解してくれたらいい。じゃあな」
「お、おいっ!」
男の呼びかけに応じることなくそのまま店を後にすると、町を抜けて獣人街を目指す。
獣人街は町の正面入口を避け、離れた場所に集落ができている。
街と称してはいるが、実質集落のような環境で人が住む場所に比べると設備も心もとない。
隼人を見た獣人たちが口々に、なぜ人間がこの場所へ来たのかを疑問視している言葉を吐くところ見れば、人の出入りはほとんどないのが理解できる。
「すまない、ちょっといいか?」
それに言葉をかけると逃げるようにその場を去るのも、歓迎がされていないのを理解するには十分すぎる。
「少しでも会話ができればって思ったけど、まぁこれが普通なんだろうな」
ただこういうときに向こうから話をかけてくる者もいる。
それは善意からのものではないのも理解している。




