忍び寄る悪魔#02
「よっと」
身動きを取らなくなったクリーピングデビルの体から飛び降りたカムイは、腕を回しながら隼人のところへ戻ってくる。
あの巨体を一発で仕留めた実力は相当なものだろう。
「さぁ食おうか?」
ニカッと笑みを浮かべると隼人と一緒に元場所に戻り、クリーピングデビルの鋏のような前足を切断すると、火を焚き吊り下げる形で焼き始める。
しばらくして焼き上がったそれはとても身が詰まっており、なにより蟹の味に似ていた。
腹ごしらえを終えた二人は再び歩きはじめ、日が暮れ始めた頃に予定通りフレムノに到着した。
「ここでお別れだ」
「あぁ、またなカムイ」
「またな」
簡単な挨拶で分かれると、カムイは獣人街がある方向へ進んでいく。
隼人はそのまま王都へ足を踏み入れる。
一度来た時と何一つ雰囲気は変わっていないが、詳しいことを調べるのは翌日にして宿屋を探す。
王都ということもあり、宿屋には困ることなくすぐに見つける事ができ、1部屋借りるとベッドに腰を下ろす。
「大きく活動するのは明日だとしても、多少の情報は集めて置く必要はあるだろうな」
部屋に飾られている時計を見ると丁度良さそうな時間帯でもある。
夕刻を過ぎ、夜が深くなるタイミングで最も情報が集まりやすい場所が賑わい出す。
街酒場だ。
「麦酒とボアのソテーを頼む」
席に座って簡単な注文を行うと、気づかれないように周りの客に視線を泳がせる。
街酒場はギルド管轄の冒険者酒場ではなく、その場に住まう一般人が利用をする場所だ。
国情は国民たちの会話に耳を傾けるのが一番だから、あえてこちらを選ぶことにした。
もしこちらで有益な情報が得れなかったとしても、冒険者酒場は時間帯に関係なく情報は集まる。
しばらくすると麦酒が運ばれてきたので、手に取り口にすると一度席を立ち、各テーブルの横を通りながら厠へ向かう。
別に厠に用があるわけではないため、手を洗うと再び自分の席へ戻る。
その際はまた別のテーブルの横を通り戻る。
「準備オッケーだな」
隼人は左手で頬杖を付きながら人差し指を耳に近づけると、遠く離れた席の会話が聞こえ始める。
ざわついた店内の中で、ピンポイントでその会話だけがしっかりと聞こえてくる。




