蔑まれた一族#02
「あんまり詳しくは言えないが、俺が少しばかり特殊な力を使えるのは確かだな」
「特別な力?」
「まぁこれぐらいは見せても大丈夫か」
そういうと右の手のひらを広げ、その上に野球ボールほどの水球を作り出す。
水が乏しい環境で、すぐにここまでの水球を作り出すのは難しいのは隼人も理解している。
ベルザから教えられたとおり、この世界で魔法を使うためには精霊王によって元素があり、それに対応した精霊から力を借りることになる。
つまりこの環境下では火や風の精霊から力を強く借りることができても、水の精霊の力は弱く借りることがままならないのだ。
だが隼人の身に付けているベネスリングに使われている、赤い宝石であるリコリスがその手助けをしているため、それが可能になる。
「驚いたな」
「これ以上は内緒だ」
集まった水球を遠くへ投げ飛ばす。
「構わない。俺だって話せないことがある」
「理解が早くて助かるよ」
会話が一段落したタイミングで地鳴りが起こり始める。
その現象に驚きつつも、冷静さを欠くことなく状況把握を行う。
すると少し離れ場所から黒い球体の先に鉤爪状の鋭い針がついた物が現れる。
しっかり確認をすることはできないが、どうやら本体は砂の中に隠れているようだ。
「どうやら客が来たようだ」
「そうみたいだな」
腰を下ろしたままそれが姿を現すのを待つ。
全身に積もった砂を落としながら現れたその姿は、岩石のように大きな体に全身真っ黒な大きなハサミを持ったサソリ型の魔物だった。
「あれは?」
「クリーピングデビルって言われている、この砂漠では出会いたくない魔物の1匹だ。他にもあたりの植物に擬態して獲物を狙う厄介な魔物もいるが、こいつだけは別格に恐れられている」
「それは尻尾についている針に猛毒があるとかそんな理由か?」
「いや、毒は保有していないが、あの尻尾が理由の一つで分厚い鉄板も貫く威力を持っている。針で突き刺してくる際は、丁度今みたいに尻尾を動かす」
そう説明があるとおり、何かを定めるような動きをしながら尻尾がゆっくり動いている。
本体は動かないまま、ただ静かに尻尾を動かしながら狙いを定めるようだ。




