勇者?魔王?誕生する#02
「俺、ちょっと休憩するわー」
「お〜」
「了解〜」
照りつける太陽の日差し。
炎天下の中、海水浴を楽しむ。
「ふ〜ぅ」
ただ、他とは違って長時間に渡って海に浸かりながら遊ぶほど体力はない。
そもそも、何が悲しくて男3人での海水浴を全身で楽しまなくてはいけないのか。
「あっちぃ〜なぁ〜」
熱された砂浜からの熱気が更に暑さに拍車をかける。
パラソルの日陰で涼もうとしても、こればかりはどうしようもない。
「飲み物… 買ってくっか…」
財布を握りサンダルを履き、一言友人たちへ声掛けを行い自動販売機まで歩く。
面倒な事に浜辺から自動販売機までの距離が遠く、浜辺から出てしばらく路肩を歩いて行かなければならない。
その路肩には海水浴へ来た車両が多く止めてあるため、少し車道へはみ出しながら歩く事になる。
「危ねぇよな。 こんなの突然人が隙間から飛び出して来たら車避けれねぇぞ」
駐車してある車全てが死角となる。
それでも走行車はある一定の速度のまま通過していく。
「まぁ、普通はこんな危険な場所で、確認もせずに飛び出すなんでことはないだろうしな」
そう思った瞬間、強めの風とともに反対側から何かが飛び出してきた。
突然の事で体が驚いてしまったが、その正体がすぐに分かり平常心を取り戻す。
スイカのデザインをしたビーチボールが、強風で飛ばされてきたのだ。
しかし、それもつかの間ですぐに体に緊張が走る。
ボールから少し遅れて小さな人影が飛び出してきた。
女の子が飛んだボールを追いかけて出てきたようだ。
「ちょっ…! 危ないっ!」
最悪なタイミングで前方から車が走ってきている。
女の子はまず気付いていない、運転手は咄嗟にブレーキを掛けようとしているが、距離的に間に合わない。
全てが最悪なタイミングで、何か一つズレていればこうはならなかった。
咄嗟に体が動き女の子の手を引っ張り、入れ替わるように自分が車の前に出る。
ここを通るタイミングがもう少しズレていれば、こんな状況にはなっていなかった。
そんなことを思いながら、雑多にまみれたその場を劈くブレーキ音と共にそこで記憶は途切れた。