魔王を倒した男#02
「何度も言うけどな、俺は魔王なんて倒してないぞ」
そういって白を切る男だが、カイオルは真剣な眼差しで答えを待つ。
しばらくの沈黙の後、男が口を開く。
「そういや最近備蓄が減ってきてたな。どこかの誰かが、ウサギとイノシシでも持ってきてくれれば、ちょっと贅沢に飯でも食いながら酒を飲むこともできるんだけどな」
「……わかりました。少し待っていてください」
そういうとカイオルは腰を上げ再び外へ出る。
再び雪原へ出て辺りの生き物の気配を探るために、魔力探知を行うが一切の気配を感じ取ることができない。
「この辺りにはいないか。少し離れた所を探そう」
膝下まで積もった雪道を静かに歩いて行く。
気温も大きく下がり、ふぶき始める。
防寒を行っていても耐え難い苦痛を伴うほどだ。
カイオルは騎士時代に身に付けた、感覚遮断と恒温保持の魔法に有り難みを感じながら探索を続ける。
隠れ家からぐるりと回り込むように山を登って行くと、不自然な大きな影が見えるが、視界が悪くそれが何かは判断が出来ない。
ただそれもすぐに判明することとなる。
警戒を行った魔力探知に掛かった膨大な魔力量が、その影を出処として示しており、そしてこの魔力と似た魔力を最近感じたことがある。
「……ドラゴン」
相手に気付かれるのには時間はかからなかった。
それもそのはずで、この辺りにいる魔物と比べるならば、カイオルの魔力量は明らかに抜きに出ている。
別に相手取る必要もないが、近付いてきたのであれば警戒をするのは当たり前である。
ただカイオルにとっても同じで、わざわざ争う必要はない。
いや、争いたくない相手ある。




