魔王を倒した男#01
雪の中に身を潜め、体格に似つかわしくない大きな角で獲物を仕留める肉食の雪角ウサギ。
巨躯に鋭利な牙を持ち、その牙が刺されば致命傷は避けられないホワイトボア。
雪原には不相応な真っ黒な毛皮と紅い瞳を持ち、狼族特有の群れで狩りをし、狙われたら逃げることはできないテラードック。
これらの魔物に襲われ命を落とす冒険者がほとんどである。
ただ、辺りを見てもそれらの魔物たちの足跡はおろか、痕跡すら見つからない。
「この辺りになればホワイトボアではなくとも、ウサギ程度なら襲いかかってくるはずだが、身を隠している様子もない。噂通りドラゴンが住み着いた所為だろうか。ひとまず師匠のところまで急ごう」
道もなく景色も変わらない山の中で、まるでそこに道があるかのように迷わず進んでいく。
道なき道を進み、山の中腹あたりに大きな雪壁が目の前に現れる。
その壁に沿うように進むと、屈めば人が入れそうな亀裂が見つかる。
そこへ迷うことなく入り込むと、中は広く天井も高い。
外気が入り込む隙間も少ないため、暖かさすら感じる。
先が見えない暗闇を進んで行くと、明かりが見え居住空間が広がっている。
「なんだ、またきたのか?」
「訪ねたいことがあり、また立ち寄らせてもらいました」
そこにいた人物は、幼少期のカイオルが出会った男で当時の容姿のままそこにいた。
「黒剣はしっかり扱えているか?」
「おかげさまで」
「それでなんでまた来たんだ? こんなに頻繁に来るもんじゃねぇぞ」
「すみません。ただどうしても聞きたいことがありまして」
「なんだ?」
カイオルは適当な場所に腰を落とすと、単刀直入に質問をする。
師匠と呼ぶこの男がはるか昔、倒したという魔王について。




