ライカvsカイオル#01
「ライカちゃん準備はいいかい?」
「そっちこそ、準備はいいの? ロリコンさん」
闘技場にカイオルとライカが向かい合うように立つ。
隼人とベルザ、それに試合を見に来た一部の騎士と冒険者達が席を疎らに埋める。
「騎士たちは分かるが、なんで冒険者たちがいるんだ」
「おそらく件の依頼に参加する冒険者達ではないでしょうか? この場で今回指揮を執る騎士長の実力を見せ、安心してもらう事も狙いの一つにあるんでしょうね」
確かによく見れば腕に自信のある雰囲気を感じる事が出来る。
「こんな中で戦うことになるなんて思っていなかったからな。まぁライカなら大丈夫か」
「そうですね。ただ、現在ライカ様は魔力を抑えています。そのせいでいくつかの制約はありますが…。相手の実力が分かりませんが、ライカ様なら大丈夫だと思います」
ベルザとライカは人間に馴染むために、力に制約を設ける術式を組んであるため一部制限が掛かっている。
そうしなければ魔力量などですぐにばれてしまうらしい。
本人たちは魔力のコントロールは容易にできるらしいが、制約を設けるほうが負担もなく楽らしい。
この術式の解除は隼人のみ可能で、体に刻印されている陣に隼人の魔力を流すことで解除することが出来る。
ベルザの協力のもと、初めて行った封印術となる。
「僕は剣を使わせてもらうけどいいかな?」
「お好きにどうぞ。」
カイオルが剣を構え戦闘態勢に入る。
対してライカは構えることもなくただ立っている。
「じゃあいくよ!」
カイオルが走り出しライカに剣を振るう。
対するライカは簡単に避け蹴りを放つ。
それを剣でガードするカイオル。
「先に言っておくけど、本気で来ないとどうなっても知らないよ」
「これは失礼」
カイオルは剣でライカの足を押し戻し、後ろに飛び退ける。
一定の距離を取ったのちに腰を落とし、剣先をライカに向け両手で構える。
「剣技、三星剣」
素早くその場で三点を突き、斜めから剣を振り下ろす。
ライカとは距離が離れておりその攻撃は全て届かない。
届いていないはずだが、振り下ろした直後にライカは斬られ後ろに吹き飛ぶ。
「ライカが斬られた…?」
ギャラリーの冒険者たちからはどよめきが上がるが、騎士たちは何も驚いた様子はない。
「どうかな? これでライカちゃんも本気を出してくれるかな?」
ゆっくりと起き上がり、斬られた箇所に目を配りカイオルに視線を向けるライカ。
見た目よりもひどい傷ではないようだ。
「ちょっとだけ本気をだしてあげるよ」
ライカは全身に雷を纏い始める。
隼人と戦った時と同じだが、術式を設けている分劣っている。
「≪スクード(身体強化)≫ではないみたいだね」
ライカがカイオルにゆっくりと手のひらを向ける。
「これぐらいは耐えてね」
カイオルに向けて衝撃波が放たれる。
一瞬のうちに闘技場を震わす衝撃波に、場内に居る全員が腕で顔を庇う。
直撃したカイオルも剣を地面に突き立て、その場に膝を付いている。
その背後は衝撃波に耐えれず崩壊している。
「なんだいまの…」
「魔…、ハヤト様にはまだ魔法に関して説明をしていないことがありましたね」
「なんだ?」
「魔法は使う者により得意な属性が存在します。得意なものであれば問題なく扱えますが、不得意なものは少し劣ります」
「その理屈は理解できる。勉強が得意で運動が苦手とかそういう感じだな?」
「ライカ様はもとよりドラゴンということもあり、全ての属性を扱うことはできます。その中でも雷の魔法に長けているのは分かって頂けると思います。そしてもう一つ圧倒的に長けている属性が風です」
「じゃあ、今の衝撃波は…」
「風を圧縮したものです」
風とは思えない威力と衝撃に驚きしかない。
隼人と戦ったときはほんの一部も力を発揮していなかったということだ。
術式で制御されていなかったら、その威力は想像もできない。
「どうかな? これでロリコンさんも本気を出してくれるかな?」
ライカは笑みを浮かべる。
「やっぱりドラゴンって戦うことが好きなのか?」
「戦いというより、力比べが好きという感じでしょうか」
カイオルが剣を支えに立ち上がる。
「いや~、驚いた。これは僕も本気を出さないと死んじゃうね」
「口だけじゃないみたいだね」
立ち上がったカイオルは全くの無傷。
確かに直撃だったはずだが、傷一つ負っていない。
「ライカちゃんは雷と風かな? まだ他にも隠してそうだけど」
「それこそ、自分の目で確かめてみたら?」
「それもそうだね」
喋り終わったと同時に、目の前からカイオルが消える。
「ライカ後ろだ!」
隼人の声に反応して後ろを振り向くライカ。
ただ、反応が遅れてしまったその一瞬が致命的。
「ちょっと遅かったね」
ライカに向けて剣が振り下ろされる。




