騎士長カイオルの提案
「そのローブを纏った人物が関わっていることは間違いないでしょう」
「ただ何の目的かまではわからないけどな」
ギルドの酒場で卓を囲みながら情報共有を行う。
「で、なんでライカはそんなに元気がないんだ? ピークスでも食うか?」
「いらない。なんか臭いし酸っぱいし」
「そうか? 美味しいぞ?」
一つ口に運びながら話をする。
「ライカ様はどうですか?森の近くまで行かれたようですが」
「勝手に行ったのか?」
「様子を見に行っただけ。というか、なんで知ってるの?」
ライカの問いに対してニコニコ笑顔で答えないベルザ。
「昔からそういうところあるよね。なぜか全員のプライベートを知ってて、聞くと答えない。今回の手紙だってなんで私の場所が分かったのか…」
ベルザにはまだ隠された能力があるらしい。
いつも笑顔のイケメンというわけではないようだ。
「で、実際どうだったんだ?」
「全然だめ。森に一歩でも踏み入れるのは難しそうだった。」
ライカが話を始めるタイミングでステーキが運ばれてくる。
それを頬張りながら話を続ける。
「森の入口となりそうな場所は兵が見張っているし、手薄になる部分には術式が施されてた。しかも探知と拘束が同時にできる複合魔法。一歩でも踏み入れたら動けなくなるよ。お代わり頂戴!」
「複合魔法ということは中級魔術師以上ですね」
「魔法って複合することもできるのか?」
「複合することでより強力になったり、別の魔法として扱ったりできます」
「なるほどな」
「それで一応、空からも考えたけどあまりにも目立ちすぎるからやめた」
新しくきたステーキを頬張る。
「やっぱり正面からいくしかないよ」
「正面からもいかないし、食べ物を口に入れたまま喋らない」
食事のスピードとは異なり、話は一切進まない。
そんな三人のテーブルの前に一人の男が足を止める。
その男の後ろには甲冑を身に纏った男が2人付いている。
「君たちも討伐参加希望者かい?」
「誰だあんた?」
「おっとすまない。僕はカイオル。そちらのお嬢さんは知っていると思うけど」
そういうとライカに目を配る。
「知り合いか?」
「ん、あぁ、ロリコンさんじゃん」
何枚目が分からないステーキを頬張りながら答える。
「あんたロリコンなのか」
「幼女愛好家さんですか」
「貴様ら失礼だぞ!」
付き人の一人が声を荒げる。
それを制するカイオル。
「盗み聞くつもりはなかったのだが、君たちの会話が聞こえてね。サラマンダ討伐に参加したいんでしょ?」
「ロリコンで盗み聞きとはいい趣味だな」
「違うんだ。とりあずロリコンって呼ぶのをやめてくれないか?」
あからさまに落ち込んだ様子をみせる。
「勝手にだがギルドの受付で君たちのランクの確認をさせてもらったんだ。そうしたらDランクで到底参加できないランクだった」
「なんであんたが俺たちの情報を勝手に見る権利を持ってるんだ?」
「それは僕が騎士長だからだよ。あらゆる依頼の確認をするうえで、ギルド所属の者たちの情報を見ることが出来る権利を持っている」
「ライカ様、騎士長とお知り合いだったのですか」
ステーキを咥えた状態固まるライカ。
「ライカという名前なんだね」
「それで、その騎士長が何の用だ?」
「カイオルと呼んでくれて構わないよ。いや、もし君たちの実力が適うのであれば、この討伐に参加してもらいたいと考えている」
現状かなりうれしい申し出である。
「というのも、参加者が少なくてね。こうして足を運んで交渉をしているんだ」
「それであってもSランク任務を、Dランクの人間に話を持ち掛けるとは思わないぞ」
「君たちからは特殊な何かを感じるんだ。あくまでも僕の勘だけどね。それでもし応じてもらえるなら、明日王国闘技場にて手合わせを願いたい」
「いいよ!」
考える間もなくライカが声を上げる。
「その話受けるよ。そして私が相手になってあげる」
「ライカちゃんが相手か。(本当はあそこの男が良かったが…)」
少し視線をハヤトとベルザに動かすが、すぐにライカに向ける。
「全員じゃなくていいのか?」
「君たちの誰かの実力が大幅に劣るとは思っていないから、一人の実力が分かれば十分さ。それじゃ明日、待っているよ」
そういうとカイオルと付き人の2人は店を後にした。
「それじゃ、明日に備えて俺たちも帰るか」
「特にご心配はされないのですね」
「ライカなら大丈夫だろう。それに俺たちの目的はあくまでも、懐への接触と情報収集だ。この際サラマンダは討伐できなくても問題ない、というと語弊があるけどな。優先順位が違うんだ」
「サラマンダの討伐はさせないよ」
「ということだ。サラマンダを最終的にどうするかはライカに任せる。ローブの人物も気になるからな」
飲み物を飲み干し店を後にする。
翌日、王国闘技場に震撼が走るのであった。




