もうひとりの異世界人#01
『…なにかいるな?』
向けられた鋒は下げられ傍を通り抜けてその姿を消すと同時に、その場の空気が一気に軽くなる。
大きく息を吸い吐きだすと、止まった時間が動き出す。
『今のうちに逃げないと…っ!』
気付かれないように静かに、それでも急ぎながら身体を動かそうとすると、背後から斬られるような錯覚を覚える。
それも一度だけではなく、何度も何度も鋭く斬られる感覚に襲われ、再び呼吸がし辛くなる。
その感覚に痛みはなく、これが殺気だということに気付くのには時間はかからなかった。
『寒い…』
自分の意志とは反対に裏口ではなく、その元凶を突き止めるように表の様子を見るべく体が動き、一部穴の空いた隙間から覗き見る。
血の匂いが漂う中で異形と人が対峙しており、そこからはあっという間だった。
向かい合っていた二つの姿は一瞬のうちに一つになり、分かったのは月明かりに微かに照らされ光った刃と、異形がその場から姿を消したことだ。
それと同時に先程まで感じていた殺気も消えていた。
『…生き残りがいるのか。おい、出てくるんだ』
こちらに向けて掛けられた言葉に驚きながらも、ゆっくりと月明かりの下に姿を現す少年。
異形を消し、少年に声をかけた人物はひと振りの刀を腰に携えた青年だった。
『この村に残っているのはお前だけか』
『あの、さっきの…』
『あれは鬼だ』
『鬼…?』
『こっちの世界ではオーグルって種族だったな。ただあいつはオーグルでも、ただのオーグルじゃない。デパーオーグル、堕鬼と呼ばれ、ただ殺戮だけを求めるオーグルだ』
青年は周りを見渡した後に言葉を続ける。




