ピークスと黒いローブの人物
ベルミナ街、宿屋にて。
「サラマンダに会いにいく」
真剣な顔をしてライカが言う。
「『火竜サラマンダ討伐。この地から北に位置する大森林にて、火竜サラマンダを確認。王国騎士団と共に、目標の討伐協力をギルドに要請する。なおこの依頼はSランクとする。』と依頼書にはありますね」
ベルザがギルドから受け取った依頼書に目を通しながら説明を行う。
「会いに行くにしても、既に厳戒態勢が敷かれているから、侵入は難しいぞ」
「それでも会いに行く」
「わかってはいたけど、意見は曲がらんよな」
「私たちのランクでは正式な受託はできないので、強行手段を用いることになりますね」
騎士団に少しでも近づき、王国の懐に入り込みたいという思いとは裏腹に、要注意人物になりそうな感じだ。
「とりあえず、現場に無理やり居合わせるにしても作戦は練る必要がある、まずはそれからだ」
隼人は立ち上がり部屋を出ようとする。
「魔王様、どちらへ?」
「少し街の中を歩いてくる。サラマンダの話で盛り上がってるから、何かしら有益な情報が聞けるかもしれないからな」
そういうと部屋から出ていく。
「私も出かけよっと」
「それでは私は留守を預かります」
「じゃあね~」
「あ、ライカ様」
「なに?」
「大丈夫だとは思いますが、くれぐれも勝手な行動は控えてくださいね」
「わかってる。私もそんなに身勝手じゃないよ」
ライカも隼人の後を追うように部屋を後にする。
「…火竜サラマンダ。確かに温厚な竜ではないですが、何もなければ気性の荒い竜でもない。それにこんな土地に姿を現すような竜でもない。と、考えると何かありそうな気はしますね。この国の騎士団の力量は不明ですが、サラマンダを倒すほどの実力があるのか。何にせよ、普通ではなさそうですね」
ベルザが一人思考を巡らせる。
「≪スアーク≫」
ベルザの手から小さい黒い影が一つ生まれる。
それをそのまま地面に落とすと溶けて姿を消してしまった。
「あとは待つとしましょう」
窓から賑わう街並みを眺めながらベルザはそう呟いた。
場所を変えて隼人は街を歩く。
「西洋の街並みって感じだな」
月並みな感想を呟きながら景色を見渡す。
小綺麗な外観の建物が数多く立ち並び、その中で屋台のような店が並ぶ。
平和という言葉が良く合う街だ。
「おい、兄ちゃん。どうだい一つ」
屋台の店主から声を掛けられる。
店の商品は見たことのないものばかりだが、そのすべてが瓶の中に野菜などが液に浸って保存されている。
「何の店だ?」
「さては兄ちゃん冒険者か?」
「まぁ、そんなところだ」
「それなら記念に是非食べていってくれ。これはこの国の裏名物ピークスだ」
「ピークス?」
「物は試しだ、さぁひとつ食ってみな」
店主が楊枝に刺したピークスを手渡してくる。
匂いは少し酸味が効いているが、臭いわけではない。
そのまま口に運び味わう。
「…なるほど、ピクルスみたいなもんか」
「どうだ旨いだろ?」
「確かに美味しいが、これが裏名物だなんて初めて聞いたぞ」
「そりゃそうよ。俺が勝手に流行らせようとしてんだからよ」
満面の笑みで店主が答える。
なんだかノリのいい人物で嫌いではない。
「流行るといいな。おっちゃん、一つもらうよ」
「まいどあり!1つ5シルバーだ」
支払いを行い、商品を袋に入れてもらう。
「それにしてもこのタイミングでこの街にいるってことは、兄ちゃんもサラマンダ目当てかい?」
「何か知っているのか?」
「一般人の俺が知っていることなんて噂程度なもんだが、本来サラマンダがこんな地に現れることはねぇんだ。本来は火山の火口に住むドラゴンだからな」
「そうなのか」
「そうよ。そいつが現れたってことでこの街はちょっとしたお祭り状態よ。ただな、変な話も聞いている」
「変な話?」
「このサラマンダは突然現れたらしいが、どうやら何者かが呼び出したらしいんだ。召喚魔法っていうのか? そういうのは詳しくねぇが、初めに目撃された場所で黒いローブを着た人物が目撃されているらしい。そいつが何かしていたのは間違いないみたいだ」
「黒いローブの人物…」
「まぁ俺も聞いた話だから、本当かどうかはわからねぇがな」
商品を受け取る。
「ありがとう」
「まぁ本当かどうかもわからねぇ話だ。兄ちゃんもサラマンダ討伐に参加するなら十分に気を付けてな」
「あぁ、心配ありがとう」
店を後にし店主が話をしていた内容を思い出しながら、再び街中を歩きだす。
話の出所は分からないが、サラマンダと一緒に目撃されている人物の存在。
「ここに来てようやく進展ありってことかな」
ピークスの瓶が入った袋を片手にさらに街の中を探索する。




