赤竜の噂
モンス王国内。
ベルミナ街ギルド、併設酒場。
3名がモンス王国へきて幾日が経過している。
稼ぎはギルドの依頼をこなし、宿屋暮らしをしている。
ただ本来の目的である、掴みたい情報はいまだに収集できていない。
王国騎士兵にコンタクトを取り、情報を集めることが出来れば手早いのだが、それも言うほど簡単なものでもない。
当たり前の話だが、国情機密をそう簡単に喋る騎士はいない。
第一、コンタクトを取る機会が希薄である。
「困ったな」
「どうされました? 魔王様」
「ベルザ、その呼び方はやめてくれ。誰かに聞かれたらまずいだろう」
「失礼しました」
モンス王国に付いてから一つ取り決めを行った。
それは隼人に対する呼び方だ。
魔王と呼ぶ事を禁止し、ハヤトとして呼ぶように決めた。
これは様々な最悪ケースを生まない為でもあるが、隼人自身が魔王様と呼ばれるのに慣れないという理由もある。
「それにしてもさ、いうほど国情も荒れてないし至って平和だよね」
出されたステーキを頬張りながらライカが喋る。
「表面的にはそう取り繕う必要がありますからね。そうでないと、今回みたいによそ者を簡単に受け入れたりはしないでしょう」
「でも、ライカの言う通り。この雰囲気を見て、国同士がいがみ合っているなんて思えないんだよな」
飲み物を口に運びながら会話を続ける。
「これを言い出したら意味がないんだろうけど、情報を流してくれた魔物が、本当のことを言っているかすらわからないからな」
「ハヤトはどう思うの?」
2枚目のステーキを頬張りながらライカが問う。
「個人的には嘘だとは思っていないさ。もし仮に嘘だとしたら、この話をした魔物にメリットがない。それも魔王側近のベルザを相手に、意味もないリスクを背負う必要はないからな。ただまぁ、真偽はどうであれこのギルドシステムじゃ時間が足りないな」
「ギルドも依頼を受けて、それを登録者へ斡旋していますからね。信用を置けない人物に高難易度の依頼を渡したところで、ギルドの信用を落とすだけですから」
「でもここ数日の間で1つランクは上がったから早い方じゃないかな」
幸せそうな顔でライカはステーキを頬張る。
「と言っても、EからDに上がっただけだ。国絡みの依頼は最低B以上で、重要度が高ければA以上必須だ。あと最低でも2つ以上昇格する必要があるって話だ」
「それにBランク以上は昇格試験と呼ばれるものが存在するようですね」
「よくある面倒なシステムだな」
木製のジョッキに注がれた、ビールに似た飲み物を飲み干しテーブルに置く。
ギルド併設の酒場ということもあり、依頼の話やモンスターの話で騒がれている。
その中で一つ気になる話が聞こえた。
「そういや聞いたかよ。今度、騎士団がドボル大森林に行くらしい」
「一体なにしにいくんだ?」
「話ではサラマンダの姿が確認されたとか」
「そりゃほんとかよ。もしそれが本当ならやべぇな」
「被害が出る前に討伐するんだってよ。おそらくギルドにも依頼が来るだろうさ」
「いいなぁ~ 俺らも参加出来れば素材を売って大金持ちになれるんだけどな」
「俺らには無理無理。丸焦げなっちまうよ」
「ちげーねーや」
大きな笑い声で締められた会話。
情報収集は酒場だとよくいうが、思わぬ収穫だ。
「ベルザ、ライカ。次の目的が決まったぞ。て、あれ? ライカ?」
先ほどまで目の前で幸せそうにステーキを頬張っていたライカの姿はなく、あるのは山積みになった空のお皿だけだ。
「つか、どんだけ食ってんだあいつ」
「ハヤト様。ライカ様はあちらに」
ベルザの言う方を見ると先ほど会話が聞こえたテーブル席にいた。
「どうした、お嬢ちゃん?」
「ほぉのはなふぃ、くわひくひかしぇお」
「なんだ? なに言ってるかわからねぇよ、お嬢ちゃん」
ライカは口に含んだものを飲み込む。
「その話詳しく聞かせろと言ったんだ」
遠目から見ても明らかに絡み方が輩だ。
「すまない。俺の連れが邪魔をしたな」
「兄ちゃんの連れか? 一体この嬢ちゃんはなんだ?」
「さっきあんたたちが話している噂話が聞こえてな」
「あぁ、サラマンダのことか」
「楽しく飲んでるところ、迷惑かけたお詫びに一杯おごらせてくれ。で、よかったらその話を詳しく聞きたいんだが」
「あぁ、構わねぇぞ」
酒を飲み交わしながら話を聞きだす。
男たちの話では、隼人たちがモンス王国に来る少し前に、とある山で大規模な火災が発生したらしい。
一時騒然としたが大きな被害もなく無事に収まったようだが、その炎の中で影を見た者がいたらしい。
火災の規模からして火竜サラマンダではないかと噂が立ったというのが経緯だ。
それがこの街から北に位置するドボル大森林で、本当に姿が確認されたらしい。
討伐の為に精鋭騎士兵と、国からギルドに高難易度依頼として発注があるかもしれないと。
男たちから情報聞き出した翌日、ギルドから正式にSランク依頼として公開された。




