交戦#01
「お前は職業柄、僅かな違いに気付けるように訓練されているといったが、俺たち騎士も同じように厳しい訓練を受けている。実践を想定したものや、圧倒的に不利な状況を模した訓練など様々だ。その中で個人差はあるが、人の動きや思考、先頭における様々なことを身につけていく。さらに俺は特別に個人での訓練を受けていたこともあり、他の騎士たちよりも敏感に変化に気付ける力を持っている」
「何が言いたいのですか? 今更、自己紹介なんてしなくてもいいですよ」
お互いの表情に緩みはなく、緊張した空気が流れる。
「あくまでも女性の姿をしているから、傷つけないように配慮をしようと思っていたが、そんな必要はなさそうだな。単刀直入に言うが、お前は魔物だろ? 魔物の臭いがするぞ」
「ふふふっ。一体何かと思えば、私が魔物ですか」
アーネルは少し笑いながら歩き出し、アンベールの脇を通りながら言葉を続ける。
「本当に女性に向ける言葉じゃないですね。貴方今まで女性とお付き合いされたことないでしょう?」
「それなら、お前がデートでもしてくれるか?」
「お子様な貴方には、刺激的すぎるかもしれませんよ?」
緊張で張り詰めた空気は今にも破裂しそうな状況だ。
抑えられていたお互いの殺気が、漂う空気を切り裂こうとしている。
アンベールは扉を背に、アーネルは窓を背にした状態で向き合う。
どれほどの時間を見つけあっただろうか。
1秒が果てしなく長く感じる状況は、夜鳥のひと鳴きを合図に破られる。
先に仕掛けたのはアーネル。
開いた距離から素早くアンベールに何かを投げつける。
しかし、避けるのには余裕がある。
「そんな攻撃は当たらない」
「当たるとは思っていませんよ」
一足飛びで距離を詰めたアンベールは体術を繰り出す。
剣は所持していない。
寝具の側に置いてはあるが、距離があるためすぐに手にすることは難しい状況である。
「今の魔術師は体術も使えるのか」
攻撃をさばきながら反撃を行う攻防が繰り返される。
本来であればアンベールが優勢に事を進めることができるはずだが、今回はそうはいかない。
「闘技場でやられた怪我が思った以上に酷いようですね」
「お前相手には十分だ」
隼人にやられた肋が、動くたびに鈍い痛みを訴えてくる。
そのため攻撃に少しばかりの遅れが生じる。
「(流石に分が悪いですね。本調子ではないとは言え、武の心得は相手が上である以上、優位に立つことは不可能。だからといって、標的を目の前にして立ち去るつもりもありませんが)」
アーネルは魔力展開を行い、強制的に距離を取る。
「魔法を使われると厄介だな」
「私相手には十分なんでしょ?」
そのまま小さな紫色の球体を複数放出する。




