決着#02
「アンジェ、ちょっと離れてくれ」
隼人が指を鳴らすを、バケツを返したような水がアンベールの顔を濡らす。
「ハヤト様?!」
驚くアンジェリークをよそに声をかける。
「さっさと起きろ」
「うっ…、ぐぅっ…!」
「アンベール!」
苦痛に呻きながらも少し目を開ける。
その視界はぼやけながらもアンジェリークの姿を映すことが出来ている。
「姫様…?」
「ご無事ですか? アンベール」
その表情は安堵からか、今にも泣きだしそうな顔をしている。
しばらくアンジェリークの顔を見たのちに、隼人へ顔を向ける。
「喋んなくていいぞ。そのガードの甘い腹に思いっきり叩き込んだから、喋るのだってキツイだろ。教えてもらわなくてもわかってるだろうけど、お前の負けだ」
静かに空を見上げるアンベールはゆっくりと喋り出す。
「俺は、結局。仇を、打つことも…、魔族を倒す、こともできない…」
「そんなことはありません。貴方が努力をしていることは知っています。カイオルを強く慕い、背中を追いかけて日々鍛錬を行っていることも知っています。ただ、カイオルを失ってから、貴方は犯人を捜すことだけを考えて行動するようになってしまいました。どれだけ危険なことでも、カイオルの仇をとることが出来るのであればと、自分を犠牲にしてまで。私はそれが嫌なのです。もっと自分を大切にしてください。そして、貴方を大切に思っている人たちもいることを、忘れないでください」
静かに話を聞くアンベール。
「カイオルの影を追いかけたり、勝手に仇をとるって意気込むのも自由だ。だけど、お前は誰かを守るって役目もあることをわすれるな」
「……」
「さてと、そろそろ本格的に目的を探るとするか」
隼人は観客席への入場口の一つを見つめる。
アンベールはクレムに肩を借り会場を後にし、アンジェリークも一緒に付き添う。
後ろ姿を見届け、追うように隼人も闘技場を後にした。
その後、日が落ち始めてもライカの姿は戻らなかった。
街中は静寂に包まれ始め、時より夜鳥の声が聞こえてくる。
王都とはいえ、辺は雄大な事前も残っているのがベルミナの特徴の一つだ。
城内も同じく静けさが増し始めた頃、災厄の火種が燻り出していた。




