アンベール・ノーリッジ#02
アンジェリークの後を付いていくと中庭に出た。
小さい庭園のようになっており、色とりどりの花が植えられており、そのすべてが丁寧に手入れされている。
その一角にあるベンチに腰を下ろす。
「まずは何から話をしましょう」
「あの人ってのは誰のことだ?」
「ご存知とは思いますが、カイオル・ベイグラス。カイオル騎士長の事です。アンベールはカイオル直下の部下でした」
「(カイオルのね…)」
アンジェリークはそのまま話を続ける。
カイオルはサラマンダの一件が落ち着いたあと、アンジェリークの護衛専属へとなったようだ。
「アンベールはサラマンダ討伐にも同行できるほどの実力を持っていて、誰よりもカイオルのことを尊敬し慕っていました。カイオルも彼に騎士としての心得や、剣技など教えることが出来ることは教えているようでした。だからこそ今回の件を聞いた時には、誰よりもショックを受けていましたが、カイオルが行っていた任を誰に任せるのか悩んでいる時に、名乗り出したのは彼です」
「カイオルの影を追い続けてるんだろうな」
「えぇ、カイオルは本当に素晴らしい人でしたから」
そう笑みを溢しながら話すアンジェリークには、それ以上の想いを感じ取ることができた。
「ただ、その時からアンベールは少し変わってしまいました。任を引き継いだのも何か別の目的のためのように感じるのです」
「(おおよそカイオルを殺した犯人探しってところだろうか? クレムの言う通りであれば、持ち込まれた防具を見ることで違和感を覚えるはずだが、それがないってことは余程心に余裕がなかったか、アンベールが未熟なのか。どちらにせよ、国王が意図した任をこなしているようには思えないな)」
「ハヤトさん」
突然改まって隼人の名前を呼ぶ。
そして願いを伝えてくる。
「アンベールの目を覚ましてもらうことはできますか?」
「目を覚ます?」
「勝手な願いだということは分かっています。ですが、あのままでは本当の彼がどこかへ消えてしまいそうで」
「そういわれても、大人しく話聞くタイプとは思えないぞ。それこそ一発ぶん殴って大人しくさせてから、話を聞かせるとかしないと」
「それでも構いません」
物騒な提案に乗るアンジェリークの様子を見るに、それだけの思いがあることは理解することが出来る。
隼人は聞こえるようにため息をつく。
「わかったよ。そしたら闘技場を借りることはできるか? あそこに今から2時間後に来るように伝えて欲しい」
「わかりました。お父様にも私から許可を取り、必ず連れていきます」
アンジェリークは立ち上がりその場を立ち去る隼人の後ろ姿に、静かに頭を下げた。
時間を同じくしてアンベールの部屋の扉を叩く音が響く。
静かに扉を開くとそこにはアーネルの姿があった。
「君は?」
「イサンダより派遣された魔術師セラ様の弟子で、アーネルと申します」
「魔術師が何の用」
「ある男のことで少しお話をしたいのですが、中へいいでしょうか?」
眉間にしわを寄せ、表情を少し曇らせる。
アーネルは一切表情を変えることなく、返事を待っている。
アンベールは静かに部屋へ案内し、誰にも聞かれることがない会話が行われた。
時間が経ち2時間後。
闘技場にはアンジェリークと数名の騎士がおり、フィールドの中央には隼人が、訓練用の木製の槍を持って立っている。
少ししてアンベールがそこへ姿を現す。




